「待っていたよ。綾ちゃん」

ワンマンバスの前方のドアから降りた途端に、声が掛かった。

伯母がバス停で待ってくれていたのだ。


「お父さんが良く許してくれたわね」
そう言いながら、荷物を持ってくれた。


「恵ったらあんたのお父さんに遠慮して、泊まっていったのは、綾ちゃんが産まれる時位だったわ」

荷物を自転車の前カゴに入れて、伯母は自転車のスタンドを外した。


「今、確か高校一年生だったわよね。私この前驚いたの。ホラ妹のことよ。あの子にあんなに言えたのは、多分綾ちゃんだけだと思うよ」

伯母の言葉がくすぐったかった。

本当は生意気なことを言ったと思っていたからだ。




 私が誰の子供なのかを知るには、母が結婚前に誰と付き合っていたかを探す。
それが一番の近道だと思っていた。

私はそれを今から決行しようとしていた。
でも本当は……
父の子であってほしいと思っていたんだ。
いけ好かない父だけど……




 一泊二日。
宿泊先は母の実家。

伯母なら何かを知っているのではないかと思った。
母の哀しみの本当の理由も知りたかった。

もし私の本当の父が、今の父ではなかったとしたら。

もし結婚式の前に、強引に引き裂かれていたのなら。

愛する人と結ばれなかったのなら。
これ以上の苦しみはなかったはずだと思った。


もし……
その人が私の本当の父だったとしたら……


父も母も、今の父も、辛いはずだと思った。