相続税が払えなくて土地を物納した話はこの地域では有名だった。
それらは保留地などで公売されているようだ。
この頃そんな販売地が増えてきたと聞いている。


先祖代々受け継がれて来た土地が税金を払えないばかりに取り上げられる。


理不尽だと思いながらもそうしなければいけない現実。
側にいながらずっと見てきた。
だから、きっと母も苦労するのだろうと思う。


でもそんなことより、母の気持ちが納得したいのだと思った。


財産を譲り受けても、公務員の父の給料で税金賄えるはずはないと思う。


でもそんなことでは計り知れない愛がある。
家族愛がある。
地域愛がある。


決して離島の生活を忘れた訳ではない。

私が島に残りたかった思いと、母が祖父母を心配して帰りたかった思いはきっと一緒なのだと思った。

そう全て愛だったのだ。




 両親だけではない。
親戚の反対までも押し切って父と結婚した母。


実は父には、結婚しなくてはいけない相手がいたそうなのだ。

それは行方不明の姫の子孫の姫だった。


それは本家の次男の宿命だったのだ。


親戚は挙式してしまった両親に対して折れるための条件を呈示した。


それが、離島でのずっと生活することだったのだ。


だから……
埼玉に戻って来た両親は親戚連中の容赦のない攻撃をしてきたのだった。

それ故に両親は肩身の狭い思いもしてきたのだった。




 祖父母は今まで耐えてきた。
娘に逢いたい気持ちを引き留めてきたのだった。


でも、私も彼を彼処で待ちたい気持ちを押し留めてきた。

私を待っている家族を悲しませないために……


母もきっとそうだったのだろう。

本当は母に心配をかけたくなかった。
彼のことで悩んでいることを知られたくなかったのだ。


だって彼はきっとお母さんと一緒で……
嬉し過ぎて楽し過ぎて私のことなんか忘れてしまったのだ。


私はそう思い込んでいた。




 離ればなれの彼に会いたい思いは日増しに強まっていく。
私にはそれを封印してしまえるだけの器量はない。


だけど、彼との思い出を心の奥に締まうことにした。


夏休みが終わったら、私は又学生に戻ることに決めていた。