私は泣く泣く家に戻って来た。
本当はずっと島に残っていたかった。
彼が帰って来る場所はあの島しか、おばさんの元以外に考えられなかったからだ。
だから余計に、埼玉に呼び寄せたことを悔やんでいるのだ。




 彼を預けられたおばさんも優しくて穏やかな性格だった。
だから彼は町の宝になれたのだ。


おばさんの大らかな人柄と屈託のない笑顔に私も魅了させていた。
だから、おばさんの子供としても生きて行きたかったんだ。


彼と結婚さえすれば二人で親孝行が出来ると思ったのだ。
それも婚約した理由の一つだった。
でも、おばさんが大好きなことは母には言えなかった。
だからずっと内緒にしていたのだった。




 島での出来事を家族にどのように伝えたら良いものか船の中でも電車の中でもずっと考えていた。
それでも纏まるはずがない。


きっと、何故私が島に戻ったのかから話せなくてはいけないと思ったからだった。




 やっとの思いで、話しを切り出した。


まず神父さんとおばさんに再会したことと、島に帰る途中に彼が行方不明になって連絡が取れないことを話した。


驚いた両親は、彼を探してみると言ってくれた。


熊谷駅で電車に乗せて帰したからいけなかったと思ったようだ。




 本当はあのまま、島で暮らしたかった。

彼を彼処で待ちたいと思った。

そう言ったら、母に抱き締められた。


母に言うべきことではないと解っていた。

きっと自分のせいだと責めるかも知れない。


それでも私は一人で抱えていることが出来なかったのだ。




 彼は今何処で何をしているの?
この同じ空の下で、何を考えて生きているのだろうか?


そんなことより……
何故連絡してくれないのかが気になっていた。

私と約束した、高校程度の勉強はしているのかも心配になった。




 高校程度と言うのは、年に二度ほど実施する文部科学省公認の高等学校卒業程度認定試験のことだ。

旧大学入学資格検定のことで、分類国家試験なのだそうだ。

試験に合格しても専門学校や大学などに進学しなければ、学歴は中卒のままなのだそうだけど。


何らかの事情で高等学校へ通えなかった中卒資格を所持した者の救護対策だった。


他に、添削やスクーリングで勉強できる通信教育等もある。


私は高校を卒業したら島に戻って、彼と一緒に勉強したかった。

だから彼に勧めたのだ。