父はテレビのスポーツ観戦が大好きで、一言でも発したら即怒鳴られた。


そう思った途端、悲惨な過去が脳裏をよぎった。


あれは私が知る、初めて虐待を受けた日。

八時から好きなテレビを見て良いと言われ、私はワクワクしていた。

それでも父はリモコンを離さずに、CMの度にチャンネルを変えていた。




 約束の八時になり、私はリモコンを見たい番組に合わたんだ。


その途端。


『何するんだこの野郎!』

父の罵声と共に、平手打ちが炸裂した。


それでも飽き足らず、小さな私を蹴り上げ体を投げ飛ばした。

それで収まるはずもなく、拳骨とビンタを繰り返した。


『お願い殺さないで!』
やっとそれだけ言えた。

何故言えたのか判らない。

でも何かに突き動かされたようだ。


第一……
五歳の私が言えるような言葉じゃない。


私は何かに勇気を貰って、その言葉を言ったのだ。

だから私は今生きている!
生きて居られるんだ!!


あの時……
もし言えなかったら、父はきっと今頃殺人犯と呼ばれていただろう。




 父の暴力から解放された私は、ヒステリックに泣き叫んだ。


『うるさい! 何やってんだ、早く泣き止ませろ!』
今度は母に向かって罵声を浴びせた。