母の実家に戻った時父はいなかった。


(又川にでも行ったのかな?)
そんな気もしていた。


それでも私は外に出て父を探してみた。

帰って来たことを知らせようとしたためだった。




 何気に車を覗いて見て驚いた。

父が車の中で泣いていたからだ。


(えっ何故!?)

思いがけない父の行動を目の当たりにして、私は動揺していた。


私は父に気付かれないように、そっと車から離れようとした。
その時。


「綾は一体誰の子供なんだろう?」
父の独り言が漏れてきた。


(えっ!? そんな……)

私は驚きの余りに声を失った。

体がへなへなと崩れ落ちていく。

這いつくばりながら、玄関にたどり着くのがやっとだった。




 私は誰にも気付かれないように、服を着替えた。


ショックだった。

今まで父は、母をいじめているのだと思っていた。

でもその矛先は私だったのだ。


(あのお年玉の一件は、私を伯母に叱らせるためだったのではないのか?)

そう考えると、つじつまが合ってくる。

でも一体、私の父親は誰だと言うのか?

今まで、他人の子供だと知りながら私を育てなくてはならなかった父の哀しみが重くのしかかっていた。