「言っておくけど、私別にお父さんに殴らせる為にプリンを用意した訳じゃないからね」
叔母が口火を切った。


「でもあの後私がどんな目にあったか知ってるの?」


「あんたはそうやって自分を正当化する。そう言うのをひねくれ者って言うんだよ!」
叔母が母を攻撃する。私は母の瞳を見詰めてみた。


おどおどした焦点の定まらない視線。

私は母の哀しみのルーツがここにあることを確信した。


「私が今聞いていた限り、恵には悪いとこないと思うよ。ねえ綾ちゃん?」
伯母が突然私にふった。


「はい。そう思います」
咄嗟にそう答えた。


「でも、責任を転嫁させて正当化しようとするじゃない!」
叔母がまくし立てる。

確かに母にはそう言うところもある。
でも素直で正直者なのも確かだった。


「ひねくれ者。ではないです。プリン事件を仕組んだ叔母さんの言い訳ではないですか?」


「どう言う事?」
伯母が聞いた。


「やったことを正当化させるのがひねくれ者だと言うのなら、悪いと思っているから、自分の行為を正当化させようとする叔母さんの方がひねくれ者だと思います」
私はきっぱり言い切った。




 「確かに綾ちゃんの言う通りかも知れない」
伯母は腕を組んだ。


「軽い気持ちで仕掛けたプリン事件が大きくなりすぎて、余計に自分のせいではないと思いたかったのでは?」
伯母は、叔母を横目で見ながら、自分の言葉に頷いていた。




 母の話だと、プリン事件の後も叔母の嫌がらせは続き、その度祖父に殴られたとのことだった。


「高校を卒業したら就職が決まっていたのよ。でもお父さんに言われたの。『お前のような馬鹿女を就職させられる訳がない。お前は家で働け』って」

叔母は……


「そんな事いつまで覚えてる。とっとと忘れろ!」
と言った。


母の哀しみのルーツはやはりここにあったようだ。


「私でさえも覚えているのよ。暴力を受けた当事者の恵が忘れられる訳がないでしょう!?」
伯母が言ってくれた。


母は泣きながら、伯母に感謝していた。

伯母は母の肩に手を置き、無言で頷いていた。