「川に行っているとばかり思っていたわ」
伯母は私の首に手を回していた。

母のために泣いてくれている伯母。
私は伯母の優しさにいつも励まされてきた。


「お父さんが恵を叩いている所を見ていたの。私何も出来なかった」
伯母の言葉を聞きながら、私は叔母の様子を伺った。


叔母は黙ったまま頭を下げた。




 川から母が戻った。
叔母は伯母に促され、母の前に出て謝った。
母は黙って聞いていた。


「恨んでいたわ。あれからお父さん私にきつく当たってくれたから」


「そうだ。この際全部ぶちまけちゃったら」
伯母が提案する。
母は首を振りながら父を見た。


「聞かせたくないんだ」
母がポツンと言う。

伯母は何度も頷いた。




 三姉妹は、ドライブインの駐車場向かった。
私は母の事が心配で同行する事にした。


母があの日泣きながら言っていた


『私はお父さんから可愛がられていない!』
の意味がやっと判った。


私は車に揺られながら、祖父に愛されなかった母の哀しみの深さに思いを馳せていた。


『私は初めて見た。あんな哀しそうな目をした人に』

渋谷で会った老人の言葉が又脳裏に浮かぶ。


私は、これから起きる全てのことを忘れまいとして身構えた。