近くのホテルでの食事会が終わり、再び家に戻って伯母と叔母は着替えていた。


父と母は近所の川へ庭に置く石を探しに行っていた。

私も出掛けようとしたけれどヒールのある靴だったので諦めて帰って来た。


着替え中だと知っていたので、私は悪いと思って中に入らなかった。




 「全く恵ったら、今日がどんな日か分かっているのかしら?」
伯母の声だった。


「ちっとも分かっていないわよ」
叔母の声だった。


「少しでも手伝う気があればもう少し早く来られるのに!」
その言葉に私はシュンとした。




 母は何時も陰で、このような言われ方をされていたのだろう。
悪いのは母ではなく、父だって言うのに。


夫だけではなく、姉妹からも虐げられていた母。

ふと私の脳裏に、渋谷で会った老人の言葉が甦って来た。


『私は初めて見た。あんな哀しそうな目をした人に』
この事だったのか?

今日叉母の目が暗くなったのは、このような言われ方をしていると分かっていたからなのか?
私は、原因をワザと作る父が許せなくなっていた。




 「恵ってああ見えて意地っ張りでしょう? だから私昔からかったことがあって。ほらプリンの話よ」


「ああ、あのこと。お父さんに恵が叩かれたやつ?」
伯母が叔母に問いかけている。
私は次の言葉が気になり動けなくなった。


「あれって、恵が悪いんじゃなかったの?」


「実は私が仕掛けたの。ここだけの話。絶対秘密にしてよ」
叔母は軽く咳払いをして話し出した。


「お母さんに頼んでプリンを五個作ってもらったの。あの人が余りにも嬉しそうだったから、『あんた分はないよ』って言ったら本気にして」


「呆れた。だから恵はお父さんに『自分の分はないから食べられない』って言ったの?」


「そう。意地っ張りだからね」
叔母は軽く流した。


「それで叩かれたの?」
伯母は声を詰まらせたようだった。
泣き声が聞こえてきた。


「今も覚えているわ。お父さん、人が変わったように殴る蹴るしていた。恵が悪いんだとばかり思っていたわ。話が違う」