アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 イベント後、二階に移動した。
暑い街中を避けるために、CDショップに書いてあった別ルートを試すことにしたのだ。


『幻よ、ゲン。まぼろしと書くの』
と教えてくれた人が案内してくれることになった。


一番端にあるドアを開けると、又熱気が肌を覆う。
アーケード型掛け橋を渡ると、隣のビルにドアにたどり着いた。


其処は、可愛い洋服を売る店が沢山並んでいた。


その人の後に付いてその中の通路を進んで行くと、左のドアに行き着いた。


階段を上ると、JR高崎線のホームがあった。
私はその人にお礼を言って秩父線に急いだ。


SLが見たかったのだ。
今ならまだ間に合うと思ったから。


通路の人はまばらになっていた。
でも、あの人はまだ其処にいた。




 駅方面には古い電車が停まっていた。


私はそれを見ながら、カメラを持った女性側に移動した。

私達も行動を共にすることにしたのだ。




 秩父方面から煙を吐きながらSLが迫って来る。


でもそれは音だけだった。

でもやっと駅ビルの下から煙が出て、SLが入って来た。


「このアングルがいいのよねー。だって狙わないと絶対に撮れない一枚だから」


ふうーんと思いながら、又反対側に移動した。


でも、煙だけでSLは見られなかった。


「やっぱり此処からは見られないのですね」

私こ質問にその人は頷いた。


SLは反対側の線路に……
通路では見えない位置だったのだ。




 それでも、垣間見たその迫力に圧倒されて私は興奮していた。

もくもくと上がる蒸気を吐きながら、SLが通路の下を通過した。

その光景を思い出す。


「初めて見たよー!! お母さん!」
私は母の手を握り締めていた。


パレオエキスプレスは、熊谷が出発駅であり到着駅なのだ。


「ちょっとしか見えなかったけど迫力あったね!!」
私は又、母の手を握り締めていた。


「何時か二人っきりで乗りたいね」
私は言う。


「秋の秩父路なんかきっと最高ね」

私の言葉に対して、返事が返ってきた。

どうせ父は行かない。
行くはずはないと思っていた。