アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 アンケート&質問コーナーが始まった。

司会者のお姉さんは、母の斜め前にいた。母はチラチラお姉さんの手元を見ていた。


「次私みたい」
母は私に耳打ちした。


「これが最後の質問になります。佐々木恵さん、どちらに居られますか?」

お姉さんはキョロキョロいて探している。母は聞かれる前から手を挙げていた。

でもお姉さんは全然気付かない。


「さっきからアンタの傍で手を挙げてるよ」
たまりかねて大が言う。

お姉さんはハッとして、母に目をやった。


「失礼しました。灯台元暗しでした。えーと。『幻さんの曲って最高! メロディーはどのように作られるのですか?』」


「OH! ありがとう!」
幻はまずガッツポーズで母に応えた。


「メロディーですか? 基本的にはリラックスした時に浮かびますね。今はいいモバイルがありますので以前より楽してます」

真面目に答える幻。
目の前にいるロックグループは、チャラチャラした人達ではないようだった。

見た目はそう見えていたけどね。




 改めて母を見た。
母の瞳は、ライトを浴びて輝いていた。


「お母さん良かったね」

そう言いながらそっと手を掴んだ。


スクランブル交差点で、母の手を握った時のことが脳裏に浮かんだ。
だから私はもう一度言っていた。


「もっと楽しもうよお母さん」
って――。




 握手会が始まった。

母の番になる。
幻は満面な笑顔を母に向けて、心を込めて握手してくれた。

母はまんざらでもなさそうにニコニコしていた。




 「次回のイベントは渋谷です」
お姉さんはそう言いながら母にチラシを渡した。
母の目が又輝き出した。


「もしかしたら行きたいと思ってる?」

私の質問に母は頷いた。