アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 青い囲いの中に私と母はいた。
渋谷にいた時にはあんなに沈んでいた人が、今は笑っている。

私はふと、あの老人の顔を思い出していた。


『私は初めて見た。あんな哀しそうな目をした人に』

老人の声が耳の奥で響いていた。


(良かった!)

私は強引に母を渋谷に連れ出したことを誇りに感じ初めていた。

私は隣でアンケート用紙を書いていた母に向かって聞いた。


「これで元気になれる?」
って――。


母は私の質問に黙って頷いた。


"歩いて行こう"が始まり、会場が一つになろうとしていた。


何故母がこのグループを好きになったのか?
答はきっと音楽依存症。
好きな曲を聴いて心を癒やすためなんだろう。

でも父は母からそれすら取り上げようとする。
本当に底意地の悪い人だった。



 デビュー曲から、最新シングルまでのビデオグリップ。
それにまつわる思い出などを、メンバー同士で語り合うトークイベントが始まった。

母は全ての曲を知っているようだった。


(何なんだろう、この人は?)

私は首を傾げた。渋谷にいた時とはまるで別人のようだった。

(ま、いっか。これで元気になってくれるでしょう)

私は何故かホッとして、肩の荷を下ろしたような気分になっていた。