そんな中を歩く。
イヤイヤ歩く。
でも母はルンルン気分だった。
(そんなにRDが好きなんかい?)
イヤミの一つでも言いたかった。
でも、やっと笑顔の戻った母にそれは言えなかった。
幾つかの建物を越え、信号が見えた。
其処が元大型スーパーの跡建物。
この中の一角に、イベント会場はあった。
イベントはまだ始まっていなかった。
ホッと一息ついた。
安心したせいなのかお腹が鳴った。
私は傍に居た人に聞いて、建物の中にあるファーストフード店に母を誘った。
スーパーの横にあるハンバーガーショップ。
母はイベントスペースばかり気にしながら、一生懸命食べていた。
「本日はお集まり戴きまして、有難う御座います。今リハーサルをしています。本番は三時からです」
そう言いながら、ボーカルの大はマイクの調節をしていた。
メンバーは他に三人。みんなそれぞれの楽器の調整をしていた。
母は大をじっと見つめていた。
「そんなに見つめないで、恥ずかしいよ」
俯きながら大がこそっと言う。
私はそれが母に向けられた言葉だと直感した。
私はそっと母を見た。
母は気付いていない様子で、尚も見つめ続けていた。
私は急に恥ずかしくなって、母の後ろに隠れた。
今熊谷のイベント会場に居る。
私は納得出来なかったのだけど、何とか支払いを済ませて此処にやって来たのだった。
「それではベストアルバムの中の唯一の書き下ろし"歩いて行こう"です」
歌が流れる。母は目を閉じた。
出たばかりのアルバムなのに、一緒に歌っている人もいる。
何度も歌わなければ覚えられない私は、羨ましいと思っていた。
ボーカルの人の名前だけは母に聞いて知っていた。
私は、大の張りのあるボイスに引き付けられている母の気持ちが少しだけ分かったような気がしていた。
「えーと、作曲した人は? 誰?」
母は私の顔を見た。私は首を振った。
(私に分かる筈がないでしょう?)
そう思いながらも、さっき唄を歌っていた人を見つけ勇気を出して質問した。
その結果、作曲したのは幻だとわかった。
「幻よ。ゲン。まぼろしと書くの」
そう教えてくれたからだった。
私は軽く会釈して、母のいる壁際に向かった。
イヤイヤ歩く。
でも母はルンルン気分だった。
(そんなにRDが好きなんかい?)
イヤミの一つでも言いたかった。
でも、やっと笑顔の戻った母にそれは言えなかった。
幾つかの建物を越え、信号が見えた。
其処が元大型スーパーの跡建物。
この中の一角に、イベント会場はあった。
イベントはまだ始まっていなかった。
ホッと一息ついた。
安心したせいなのかお腹が鳴った。
私は傍に居た人に聞いて、建物の中にあるファーストフード店に母を誘った。
スーパーの横にあるハンバーガーショップ。
母はイベントスペースばかり気にしながら、一生懸命食べていた。
「本日はお集まり戴きまして、有難う御座います。今リハーサルをしています。本番は三時からです」
そう言いながら、ボーカルの大はマイクの調節をしていた。
メンバーは他に三人。みんなそれぞれの楽器の調整をしていた。
母は大をじっと見つめていた。
「そんなに見つめないで、恥ずかしいよ」
俯きながら大がこそっと言う。
私はそれが母に向けられた言葉だと直感した。
私はそっと母を見た。
母は気付いていない様子で、尚も見つめ続けていた。
私は急に恥ずかしくなって、母の後ろに隠れた。
今熊谷のイベント会場に居る。
私は納得出来なかったのだけど、何とか支払いを済ませて此処にやって来たのだった。
「それではベストアルバムの中の唯一の書き下ろし"歩いて行こう"です」
歌が流れる。母は目を閉じた。
出たばかりのアルバムなのに、一緒に歌っている人もいる。
何度も歌わなければ覚えられない私は、羨ましいと思っていた。
ボーカルの人の名前だけは母に聞いて知っていた。
私は、大の張りのあるボイスに引き付けられている母の気持ちが少しだけ分かったような気がしていた。
「えーと、作曲した人は? 誰?」
母は私の顔を見た。私は首を振った。
(私に分かる筈がないでしょう?)
そう思いながらも、さっき唄を歌っていた人を見つけ勇気を出して質問した。
その結果、作曲したのは幻だとわかった。
「幻よ。ゲン。まぼろしと書くの」
そう教えてくれたからだった。
私は軽く会釈して、母のいる壁際に向かった。


