アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 徒歩五分位の場所にある建物でやるらしい。
何故あの場所にCDショップがあったことを母が知っていたのかは判らない。
きっと前に其処で買ったのだろうと思っていた。


行き方は何通りかあるらしいけど、取りあえず階段に急いだ。

一番シンプルな方法で解り易かったからだ。




 「あっ、あれ!」
母が興奮していた。

何かと思ったら、霧のシャワーだった。


「あっ! 熊谷って、あの熊谷? 確か熱いぞ……」

母は頷いた。


目の前の道路はガンガンに熱しられていた。

渋谷も確かに暑かった。
でも此処とは違った。


私は電車のドアが開いた時に感じた異様暑さの正体を見た思いがした。


あの熱いぞ熊谷のキャッチコピーがピッタリだと思った。




 このクソ熱い中。
SLを待つ人。
あの人は十時十分発のSLの写真を撮ろうと彼処で待っていたそうだ。
だけど、SLのホームは上からでは見えなかったようだ。


だけど何とか撮影しようと、帰って来る電車を見ていた時にあの反対の窓から垣間見えたのだそうだ。
だから、あの場所で探っていたのだ。


《熱いぞ熊谷!!》
をスローガンにして、楽しんでしまう熊谷気質。
まさにそれだと思った。
あの人が何処の誰かは知らないけれど。




 (よっしゃー!!)

一人で気合いを入れた。

何時までもメソメソしていられない。
そう、思った。


でも、何気に階段を見て驚いた。

上から降りて来た時は解らなかった物が浮かび上がっていた。


それはアートだった。
階段に大木と其処で涼む少女の絵が描いてあったのだ。


「凄ーい!!」
私は思わず叫んでいた。