担任は携帯電話の一件で何度か接触を図った。
でも軽く交わされ、突っぱねられたそうだ。

その時、綾ちゃんの置かれた家庭環境に心を痛めたそうだ。
だから、綾ちゃんが急に退学したことを心配していたそうだ。


「綾ちゃんなら大丈夫。幸せに暮らしているから」
私はそう言いながら例の週刊誌を指し示した。


「これ絶対に内緒。実は綾ちゃんはこの人と結婚したの」


「えっ、えっーー!?」

突拍子のない声を張り上げた担任の口を私は慌てて塞いだ。


「『あいつはダメだ。ライバルが多すぎる』って言ってたけど、正体知ってたの?」
私の言葉に担任は頷いた。


「実は私の父も王子様なのよ。私と水野先生はイトコなの。私の父も水野家の次男坊だったんだ」


「えっ、えっーー!?」

担任は又突拍子のない声を張り上げた。


「本当のとこは良く解らないんだけど、何処やらの藩主の子孫なんだよね」


「そうらしいな。でもまさか……」

担任は本当に何も知らなかったようだ。




 『雪の降る中。この子は自転車で学校の行事に参加しようと頑張ったんだけど、警備員に止められんだ』

急に伯母様の家での水野先生言葉を思い出した。


(あっ、あれはそう言う意味だったの?)


でも綾ちゃんにとっては一番触れてほしくない話題のはずだ。
だからあんなにおどおどしていたのか?


『家族の具合が悪くなって車で送れなくなってね。佐々木は主役だった。でも……だからって訳じゃなく、責任感が強くて努力家なんだ』

だから水野先生は泣きながら綾ちゃんを抱き締めていたのか?


『あの後で、君が来た道を目で追ってみたんだ。雪の中に自転車の車輪の跡が続いていて、思わず守ってやりたいと思った。だから……だから』

水野先生も震えていた。
でも必死に耐えて、そして遂に言い放ったんだ。


『だからもっと君が好きになった』
と……。


『ハハーン。そう言うことか?』


『ん、何だ清水?』


『それで水野先生がメロメロになった訳ね』

その発言は水野先生の顔を真っ赤に染めさせた。
よせばいいのに私は水野先生をからかったのだ。




 「綾ちゃんに何か伝言ある? 私ね、これから島へ行って暮らすことになったの」


「まさか、お前さんまで結婚する気じゃないんだろうな?」


「するかもよ」
私は物凄く冗談ぽく言った。


「あっ、『幸せになれよ!!』って伝えておいてくれ」

担任は手を振りながら言った。