私は一旦埼玉に戻っていた。
本当は今すぐにでも島に戻るつもりだったのだ。


両親はきっと反対するだろう。
でも私はやっと会えた彼の元へ行きたくて堪らなくて、言い出す切っ掛けを探していた。




 「――だから、何度も言っているでしょう。私は彼が大好きなの!!」

やっと言い出したら、一斉に意見された。
だから自然に大声になった。


「大人になるまで待っていられないの。彼に又何かあったらと思うと心配で心配で……」


「それは解る。それは解るがまだ早過ぎる」


「又……それ?」

私は業を煮やしていた。


「何言ってるの。綾ちゃんの方が私より若いのよ。綾ちゃんが結婚出来て……、何故私が彼と一緒に暮らしてはだめなの?」


ホント矛盾してる。
相手が大人で、探していた姫の子孫だったから……
それだけで結婚を許してもらえた綾ちゃんが羨ましい。


「ほら、やっぱり一緒暮らしたがっているんでしょう?」

母の発言を聞いてドキッとした。
私は、ただ彼と同じ島の空気を吸いたいと言っていたのだ。
でも、本音を吐いてしまったのだった。




 「本当は、島にいた時に内証で婚約したの。それくらい私は彼のことが……」


「婚約って、何時の間に?」


「もう三年も前よ。私達は愛し合っているの。だからずっと遠距離恋愛していたの。でも、もう離れて暮らすことなんて出来ないの。彼からの連絡が途絶えてどんなに心配したか……」


「それで夏休みに帰ったのか?」


「私が訪ねて行かなかったら、長瀞で遊んで島に帰る途中に行方不明になったなんて解らなかったと思うの」


「そうね。彼を探してみると言ったことは覚えているわ」


「でも結局解らなかったのよね。その間彼がどんな目に合っていたのか……それを考えると胸が苦しくなるの。まさか、少年院に謂れのない罪で入らされていたなんて思いもよらなかったのよ」

私は泣き出した。
それで両親を落とそうなんて思ってもいないけど、出来れば嘘泣きでも何でもしたかったのだった。


「お祖父ちゃんやお祖母ちゃんには悪いと思っている。でも、私にも大切な人がいるの。社長の息子だと解ったからじゃないの。財産とかそんなのはどうでもいい。私はただ、彼の傍で穏やかに暮らしていたいだけなの」
そう……
それが私の望みだったのだ


穏やかに暮らす。
口に出して言うのは容易い。
私に何が出来るのか判らない。
それでも彼の心を救いたかったのだ。