「幾百年もの時を経て、俺達は今やっと夫婦になれたんだ」

幾百年……
その言葉に私は震えていた。


壇之浦で散り散りにになった先祖の姫は、姫を守っていた僅かな武将達と生き延びた。

その中に水野先生の祖先の少年もいたのだろう。


二人は逃げる途中で追っ手に捕まった。


「姫を殺さないで」
そう言いながら、少年は川を流されたのだ。




 涙が私の頬に伝わる。
私は目を閉じて、幸せな一時に酔いしれていた。


「それと……綾に一つだけ言いたいことがある」

私が目を開けると、其処には水野先生の顔があった。


「俺には……孝之と言う名前があるんだけどな」

水野先生はそう言いながら笑っていた。
涙でくしゃくしゃになりながら……


「た……孝之さん……」


「ん!?」


「もうー、意地悪ー」


「だからもう一度」
又……
ウインクされた。


「しょうがないなー。でも本当に意地悪……」

そう言いながらも口元が弛む。
目頭も弛む。


そう……
私は泣いていた。


「孝之さん……孝之」

涙で目が霞む。
声もうわずる。
でも……
その時水野先生の唇が私の言葉を吸い取った。

野次馬達が、目を覆いたくなる位のキスの嵐を私にくれるために。


これからの人生。
きっと順風満帆ではないだろう。

嵐や日照りや雷もあるだろう。


でも大丈夫。水野先生……ううん、孝之さんと二人なら乗り越えられる


私は勇気をもって乗り出した。
人生と言う大海原を……