「姫ーー!!」

島の人がいつの間にか集まっていた。


「ねぇ先生。本当に私で良いのかな?」


「綾……君じゃないと駄目なんだ」
水野先生は又慣れないウインクをくれた。


「ぎこちなーい」
私が又照れ隠しに笑う。


「しょうがないだろう。初恋なんだから」


「初恋!?」

私は突拍子もない声をあげた。
あまりにも、思いがけない言葉だったから……


「そうだよ。俺の初恋の人は綾姫だったんだ」


(綾姫? そう言えば……)


『叔父さん、やっと見つけたよ、俺のお姫様を』

私は思い出していた。
水野先生は結婚が決まった日に、おじさんに携帯電話を掛けていたことを……


「私が綾姫?」


「そうだよ。ホラ、壇ノ浦のこと話しただろう? この島に姫は居なかったって。だから俺は夢の中で探し回ったんだ」


「先生は夢の中で私を?」


「そう、十年前に……夢の中で綾姫を見つけた。俺はやっと探した綾姫を仲間の元へ連れて行こうとしたんだ。でも岩から墜ちて……」

水野先生は私の体を抱き締めながら泣いていた。


「俺は小さい時から、お袋に言われていたんだ。曾祖父の遺言を。だから、夢を見たんだと思っていた」


(遺言? そう言えば確か電車の中で……)


「本当は姫の名前知らないんだよ。でも、綾に出逢え……、綾姫だったらいいなと思ったんだ。だから勝手に綾姫にしてしまったんだ」


水野先生は遠い目をしていた。


「あのお母さんの『綾ちゃーん』を聞いた時、身体が震えたんだ。だからかな、その夜又あの夢にうなされたんだ」


私はあの日の出逢いを演出してくれた母とRDに心から感謝を捧げていた。


でも……
私が姫だったなら……
母も姫だったのかな?
もしかしたら、清水さんのお父さんと……


母にとったら、その方が幸せだったろうか?

あの父より……
歳を偽って母を泣かせた年下の男性より……


でもそうなると私と水野先生の出逢いが無くなる?

それは嫌だな――