三月三十日。
それは私の誕生日だった。

その日私は婚姻届を胸に初めて離島へ渡った。


水野先生は四月一日から正式に島の中学で教えることになって、そのための手続きや下準備には何度も往復しているようだ。


清水さんー家は、清水さんの彼を離島に送り届けるため私達より早く埠頭まで向かった。


本当は一緒に帰りたいのだろう。
でも、きっと埼玉の中学でも四月一日から仕事が始まるはずだから……

清水さんは辛い涙を流している。


私はそう思いながらも、離島で暮らしている育ての母と彼との再会に胸を踊らせていた。


私はそれは急遽決まったことだと思っていたのだ。




 その連絡船の上で、簡素な結婚式を挙げた。

ウエディングドレスはあの日着られなかったシンデレラの衣装だった。


三三九度だけだのシンプルなものだったが、どんな式よりも、心に染みた。

それは清水姉妹の思いやりだった。
二人で私のためにこしらえてくれた物だったのだ。


清水さんの洋裁部の腕前は清水早智子さんをも越えていたのだ。




 あの日演じられなかったシンデレラ。

心までもがぼろぼろになり、自ら灰被りになっていた私。


今華燭の典を挙げながら、あの雪の日の父の嫌がらせを初めて許せると思った。


華燭の典と言うのは、絢爛豪華な結婚式のことらしい。
でも私には、水野先生と清水姉妹の心配りがどんな演出より心に響いたのだった。




 「姫ー!!」

その時……


島から二人を迎えるために搭乗していた離島の一人が叫んでいた。


水野先生が慌ててその人の口を塞いだ。


(えっ!? 一体何?)

私は何が何だか解らずに戸惑っていた。