私は高校一年の単位を取得してから、学校を退学した。
勿論水野先生との婚姻は内緒のままにした。


後は離島へ行くだけとなった。

でも、最後にSLに乗ろうと父が言い出した。


「あの時思わず怒鳴ってしまった訳は、俺も本当はSLに乗りたかったからなんだ」

あまりにも以外な発言に、母と私は目を合わせた。


「あははは、何だそうだったの」

母は大笑いを始めた。


すっかり蟠りの無くなった夫婦の姿が其処にはあった。


「それじゃすぐに調べてみるね」
私はそう言いながらスマホを取り出した。

父がやっと買ってくれたのだ。
勿論三人お揃いだ。

テレビ電話みたいに何時でも逢えるから……

離れて暮らすことはやはり父にとっても寂しいようだ。



 調べてみたら、私が離島に旅立つ前日より運行しているようだった。


「よし、最後の思い出作りだ。それに乗ろう」


「ねえ、お父さん。清水さん一家と水野先生も誘っていいかな?」


「勿論そのつもりだ。綾のことちゃんと頼まなければいけないから、いいチャンスかも知れないな」


「それで、綾とはお別れなのね」

母はそう言いながら涙を拭った。


「大丈夫だ。寂しくなったらこれがある」

ちちはスマホを見ながら泣いていた。




 「あっそうだ。あの時のおばさんから招待状が届いていたんだわ。熊谷で個展やるんだって。ねえ、どうせなら早目に出掛けて寄ってみましょうよ」


「ああ、例の綾が人助けしたって、あれか?」


「九時からだって書いてあるから発車時間に間に合うし、ねえお父さん行ってもいいでしょう?」

私の言葉に父は頷いた。