「この方が例のお姫様?」
水野先生のお母様が何かを言っていた。

でも私は上の空だったようだ。


「紹介するよ。俺の親父とお袋。この人は、俺が研修していた学校の生徒で」

水野先生は、そんな私の肩に優しく手を置いてくれた。


私はハッとした。
余りの緊張に一時的に我を失っていたためだった。


「佐々木綾と申します。よろしくお願い致します」

私は慌てて、深々と頭を下げた。


「初めてね。孝之がイトコ意外の女性を連れて来るなんて」

お母様は、ティーカップのソーサーをさり気なく膝に置いている。

上品そうな振る舞いに、私はときめいていた。


「女性に興味があると分かって、正直ホッとしてる」


(えっ!?)

お父様の発言に私は戸惑いを隠せなかった。

慌てて清水さんを見ると、普通にしていた。


「『実は俺』なんて今流行りのカミングアウトはイヤですものね」
お母様もそれに続いた。

両親は水野先生を、ゲイだとでも思っていたのだろうか?
でも何故清水さんは平気なのだろう?
もしかしたら、何時もこんな風にざっくばらんなのだろうか?


テーブルは何時かテレビのマナー教室で見たような、優雅なセッティング。
其処に漂う紅茶の香り。

それはまるで、本物のシンデレラ姫になったような心持ちだった。




 「オネエ系だと思っていたのかい? ヤだな。興味がなかっただけだよ。勿論男にも」

水野先生は軽く言った。


「そう言えば、『先生になるんだ』って言って、勉強ばかりしていたわね」


「いつの間に目覚めたんだ。確かバレンタインデーはまだのはずだが?」


「渋谷だよ。この子のお母さんがデッカいパネルを持っていて、『綾ちゃーん!!』 って交差点の真ん中で叫んでいたんだ」


私は急に恥ずかしくなって口籠もった。

水野先生が心配そうに覗き込んでいる。

私はそっと顔を上げた。
おそらくは赤面しているはずだ。
頬が熱を帯びていた。