二十二歳の時自分の乗った船が難破しかけ、母の死後初めて神に祈った。

奇跡的に難を逃れた彼は回心した。
回心とは、神に背いている自分の罪を認め、神に立ち返ることだそうだ。


それでも彼はまだ奴隷船で働くことを余儀なくされていた。


二十四歳で結婚した後六年間奴隷船の船長となる。


三十歳で奴隷船の仕事をやめ、関税職員になる傍ら牧師になるための勉強を始める。


八年の後にオウルニイの副牧師になる。

五十三歳でオウルニイの讃美歌発表。
この中にアメイジング グレイスは収められていた。




 驚くべき恵み。
私のような悲惨な者を救ってくれた。
迷ったけど見つけられ。
盲目だったが見えるようになった。

神の恵みが恐れることを教え、そしてその恐れから解放してくれた。


それは神の恵みを、御加護を敬うための詩。

信じることの感謝の讃美歌だった。




 でも牧師さんの話を聞きながら彼は嘆いたそうだ。ジョン・ニュートンが難破しかけた船を降りた後も奴隷船の船長だったことを……

回心したのなら何故?

そんな彼の思いに対して牧師さんは言ったそうだ。


『彼はイギリスから奴隷貿易を禁止させた立役者なんだ』
って――。


ジョン・ニュートンの前にイギリスの国会議員が訪れて、奴隷達を救うために牧師になりたいと言った。

でも彼は諭した。

奴隷を解放出来るのは牧師ではなく、国会議員なのだ。
と説いたそうだ。


彼が亡くなる直前にイギリス議会は、奴隷貿易を禁止した。


だからあの唄は歌い次がれているのだと。




 『当然ながら、教会の反対ですぐには牧師にはなれなかった。だから彼は多額の寄付をして教会からの信頼を得たんだ』


『えっ、奴隷貿易商人だった者も寄付をすれば牧師になれるのですか?』


『それだけ、救われたかったのだと思います。そして、救ってやりたかったのだと思います。自分と同じような境遇の人達を……』

牧師さんはそう言いながら、私の手を取った。
そして私とアメイジング グレイスを唄ってくれた。




 アメイジング・グレイス……

途方もない罪人だった自分を……
神の偉大な愛で救ってくれた。
驚くべき恵みと感謝のうた。


それがアメイジング・グレイス。

神を讃える愛の讃美歌だった。


私は彼のためにこの唄を祈りを込めて歌い続けることを誓った。