アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 「全くもう……」

私が玄関を閉めると、母は急に泣き出した。


「だったら、だったら綾を送ってやれば……」

母は私の体を抱き締めてくれた。


「私を送るとパチンコに遅れるからでしょう? 結局そんな程度なのよ」

私は言い放った。


「ごめんね綾。私が男の子を産めなかったから」


(――そうか……
母はこうやって自分をずっと卑下していたんだ。

――今日水野先生から聞いたよ。子供の性別を決めるのは、男性側の遺伝子なんだって。だからお母さんは悪くないよ)


さっき読んだ血液型の本の中にそう書いてあったようだ。

水野先生の出任せかも知れないけど……




 私と父のDNAを調べるための材料集めが始まった。

母に真実は告げられない。

父が親子関係を疑っていることを悟られないためにも。


ヘビースモーカーだった父は、突然倒れて入院したことがあった。

原因は不明だった。
でも父は煙草だと思ったらしく、それ以来禁煙していたのだ。

メモにあった、煙草の吸い殻などある筈がなかった。


父がお風呂に入るのを確認して、こっそり寝室へ入った。

父の枕に付いた髪の毛数本をゲットして、ティシュペーパーに包んだ。




 ダストボックスの中にティシュペーパーもあった。
でも、どれが父のか判る筈がない。

また、濡れたティシュを平気で掴む勇気もなかった。

偶々、テレビドラマを見ながら泣いている父を見た。
私はチャンスだと思い、父にそっとティシュペーパーを渡した。

(――鼻水より涙でしょう)

私は小さくガッツポーズをとった。

ファスナー付きビニール袋の上に名前を書き、集めた物を小分けにしたまま閉まった。

私の分は、血液だ。

痛くても、我慢しようと思った。
本当の血液型を調べて、真実を知るためにも。