私は島に着いたらすぐに彼が置き去りにされていた教会へと向かっていた。
其処に手懸かりがあるのではないかと思ったからだった。
其処は私が降りた港から程近かった。


(子供を預けるのに最適だと思ったのだろうか?)
私はそう思っていた。
彼には言えなかったけど、本当は捨てられたのかも知れないと感じていたからだ。


同情から好きになった訳ではない。本当に彼を愛してる。
でも綾ちゃんのことはどうやらそれだ。
だから……私の真意が何処にあったのか解らなくなっているのは事実だった。




 教会の祭壇の前まで行く途中、彼はが何時もある曲を歌っていたことを思い出した。
それはアメイジング・グレイスだった。


彼に聞くまでこの曲が讃美歌だと知らなかった。
テレビドラマの主題歌だったり、コマーシャルソングだったりしていたから……
彼が教えてくれたんだ。その事実を。


だから私は跪いて唄ったのだ。
彼の心に届くように祈りを込めて……




 『アーメイジンググレイス……』

私の歌声があまりにも音痴だったからか、奥から神父さんが出て来た。


『あれっ波瑠ちゃん、帰って戻っていたのかい?』


(ヤバい。聞かれた。恥ずかしい)


『あの……同級生が行方不明だと聞いて……』
私はシドロモドロになりながらも彼のことを持ち出していた。


でも神父さんも詳しいことは何も聞いていないと言った。

私は祭壇に向かって、神父様と一緒に彼の無事を祈っていた。


『本当は全部歌いたいんだけど、最初の部分しか知らないんです』

戸惑いながら話すと、神父さんがその曲にまつわる話を聞かせてくれた。


一人の奴隷商人の運命的な神との出会いを……




 ジョン・ニュートンはイギリスの牧師。
船員の父と、熱心なクリスチャンの母を持つ。


六歳で母親と死別。
翌年父が再婚。
十一歳で父と一緒に航海に出る。
十三歳で強制的に徴募され、奴隷のように酷使された後に十六歳で解放される。