「言うなっていったのに。
ごめんねあかりさん。
ご足労ありがとうございます」



恥ずかしさを紛らわすかのように
大河さんはベッドの上で深々とおじぎをした。



「骨折だそうね、大丈夫?
私も小さいときに手首の骨を折ったから
なんとなく辛さと不便さがわかるわ。
お大事にして、早く治りますように」
「見てのとおり、全然平気。
ちょっと不便だけどすぐ治るよ」



にこやかな大河さんにほっとして
私たちは他愛もない話をした。
優しい看護師さんの配慮によって
面会時間が過ぎても私はそこにいた。



私は気づいていなかった。
早く帰るべきだった。
このとき家で何が起こっていたのか。
歯車はとっくに狂い始めていたのに。