僕を止めてください 【小説】

「……イヤだ…またあの地獄が来るなんて……もしこれで発作が起きたら今までの苦労が全部パーになる」

 いつの間にか僕は膝を抱えて震えていた。怖くて怖くて顔を伏せ視界を抹消した。僕が、幸村さんにやっぱり自分を殺させようとしているかも知れない。それが分かってしまう可能性にも僕は戦慄した。

「また僕が……悪魔になって……幸村さんを人殺しにしたら……」
「大丈夫だって。抜くだけで抱きゃしないよ」
「僕がどんな挙動するかわからないんだよ! またこの前みたいに暴れるかも知れないんだ! 首を反り返すだけで落ちるんだよ……自分でもどうにも出来ないんだって……」

 最後は泣きそうになった。自分がほとんど何も解決出来てないかも知れない不甲斐なさも加わって、胸の中の絶望が膨れ上がって溢れ出しそうだった。

「これがわからないままで、このあと対策本部を立ち上げられんのか?」

 そんなの良いわけがない。分析には正確な情報を欠かすことは出来ない。

「その様子だと、勝ち目がないと見てるんだな、岡本は」

 僕はうなだれて膝を抱えたまま動けなかった。

「清水さんが居なくても大丈夫かも知れないぞ?」

 わからない。そうかもしれないが、違うかも知れない。首を縦にも横にも動かせなくて、替わりに緊張でガチガチに固まった肩を更に固くすくめた。幸村さんがため息をつく。

「わかったよ」

 そう言うと幸村さんはベッドから降り、隣のリビングに移動した。僕が無理だとわかって諦めてくれたんだと思うのも束の間、彼はなぜかすぐに戻ってきた。

「顔上げろよ」
「なんで」
「すまんな」

 いきなり髪を鷲掴みにされ、抗うまもなく顔を引き起こされた。

「ちょっ……あっ」

 黒すぎる本のページはすでに開かれていた。そこには、僕が最も頭がおかしくなるあの白いロープがぶら下がっていた。タイヤ部屋のリンチが脳裏に蘇った。