「えっと?」
「裕くん、君、この前さ……寺岡さんなら、これ見せていいかもって……言ってたよね」
「え? それ……あれですか?」
清水センセは両手でぎゅっとDVDのケースをつかみ固まっているが、今は寺岡さんのほうがうろたえている。
「ちょ……ちょっと待て、それまさか?」
「ええ、見るかどうかは別として、選択肢だけ増やしました」
さすが清水センセ、こういう頭のおかしい選択には抜かりが無い。
「持ってきてくれたんですね」
「待って待って! 裕、大丈夫か?! 気分悪いとかない?」
「あ、ええ。大丈夫だと思います……たぶん」
「ごめん裕くん。この前話したことが気になって勝手に持って来てしまって…ああ…どうしよう…」
うろたえてるときの例のものすごい早口で清水センセはオロオロしていたので、僕はそれを遮った。
「大丈夫、分かってます、先生の言いたいこと分かってます。寺岡さん、僕が言ったんです。この動画、僕は見れないけど、寺岡さんになら見せることが出来るかも知れないって」
寺岡さんは僕と清水センセの顔を交互に見渡し、眉間にシワを寄せて大きく息を吸った。
「どういうこと?!」
「説明します。清水センセと僕の関係の分析に必要なのであれば、寺岡さんになら、あの……見せられるかもって」
「そんなこと考えてんの?!」
「これを見て清水センセは僕を探し始めたんだそうです。ですから、清水センセがなんで僕を必要としたのかも解るんじゃないかって」
「いや、だからって……」
「それに、これにはそもそも僕とあの男との始まりが記録されてます。僕がなんでこうなったか、寺岡さんにしかわからない視点があるかもって思うんです。僕が気を失っているときに、あの人何をしてたのか、って。僕は落とされて記憶も曖昧で、途切れ途切れにしか憶えてないし。でも僕、この映像は見れないです。いまだにこの中身を思い出すと虫唾が走るんで。半分も見れませんでした。だから一緒には見れないけど、寺岡さんは多分耐えられると思うんです」
「正気か?」
「正気じゃないからお願いしてるんです。正気に戻りたい……いつ正気だったか、もう憶えていませんけど」
寺岡さんはそれらをずっと苦虫を噛み潰したような顔で聞いていた。そしてバッタリとソファに倒れた。
「あー! もうっ! なんなのこれー」
「すみません……寺岡さんにも裕くんにも迷惑かけて」
「あの、先生、迷惑という点で言えば、三人とも互いに引けは取りませんから」
「まぁ、言われるよねぇ。一生言われるのは覚悟の上だけどさあ」
「だから今回なんとか寺岡さんにSOS出せたんです。迷惑様様です」
「こっちはさぁ、『Sucidium cadavale』だけでも衝撃でお腹いっぱいなくらいなのよ? ここに来て君らは畳み掛けてくるよねー。なんか作戦でも立てて来たの?」
「いえ、そんなの無理です」
「作戦なんて余裕ありませんから。裕くんにも黙ってました。ごめんね…」
「寺岡さんみたいに何手先なんか読めないですよ、我々は」
そうだ。清水センセは基本的に無策な男である。僕以下だ。
「ねぇ、DVDここで見たくないんだけど」
いきなり具体的な話になった。確かにこの部屋の大型テレビにはDVDが再生できる機器が付いていそうではある。ということはつまり、寺岡さんは見てくれる気なのだろうか?



