ものすごく清水センセは落ち着いて語っていた。寺岡さんという人に対する信頼感がそうさせているのかも知れない。
「僕は屍体が好きでした。でも、裕くんを見つけてから、屍体が好きなどという嗜好や性癖の範疇を超えてしまった。もう趣味でも愛好家でもない。それが僕の生きる意味であって、僕の人生を支えるもの、それが裕くんであり裕くんへの愛です。そうですね、裕くんを救えることには恍惚感を感じてしまうかも知れません」
「それは、例の動画見てからずっとそうなの?」
「裕くん、あの動画のこと、寺岡さんに話したの?」
「ええ、なんとか話せました」
「すみません……ほんとうに、ひどいことしたって思います。反省してます」
「それは、えっと、その動画を編集したってこと? それとも…」
「裕くんに見せてしまったことです。でも編集したこともです」
「まぁ、そうだろーね」
「犯罪ですから」
「……まぁそうなるね。でも残念ながら私はあなたを糾弾できるようなお綺麗な人生ではないんでねぇ。ヒドいとは思うけど」
「でも、裕くんに出会えたから……後悔は一切してないです」
「まぁそういうもんだ、人生ってのは。清水さんの気持ちはわからんではないよ。同情もしてる。でも裕を殺したら私は一生あなたを許さないから、それだけは覚えておいてね」
それを聞くなり清水センセはソファから転げ落ち、床に頭を擦り付けて土下座をした。
「知ってます…知ってます、ごめんなさい! こんなこと言ってる人間が許されるとは思ってません。幸村さんからも同じこと言われてますから、どうか、お願いですから裕くんのそばに居させて下さい! 僕は裕くんから許可が下りない限り絶対に殺しません。たとえ発作的に裕くんが殺してって懇願しても、です。衝動かどうかは僕はわかります! ご心配させて本当にすみません!」
清水センセが当たり前のことを言ってることに僕ははからずも驚愕していた。土下座をしている。普通に考えたらそれも当たり前なんだろう。いや、普通なら土下座では済まない。でも僕は誰が許さなくとも土下座など全くして欲しくなかった。
「先生、もう良いですから! 寺岡さん、僕のせいですからね! 清水センセは悪くないんです」
「でも、ストッパーは多いに越したことはないでしょ」
「寺岡さん! 清水先生は僕を助けようとしてるだけですから!」
「わかってるって、裕。ちゃんとわかってる。関係者は全員、裕を助けたいだけだってこと。やり方はどうであれ」
「あの……」
清水センセは顔を上げてなにか言いかけ、口ごもった。不安げに目が泳いでいる。信頼していた寺岡さんに強く釘を刺されて動揺してしまったのだろう。せっかく心を開きかけていたのに。どうすれば良いのかわからないまま、床に座った清水センセに声を掛けようとした瞬間、彼は不意にソファに置いてあるダウンコートの内ポケットを探り始め、白っぽくて平たい真四角の板のようなものを引っ張り出した。
「寺岡さん、これ」
「は?」
寺岡さんが珍しくギョッとしたような顔になった。



