たった1秒ほどでこのフィルムが全て再生された。察しの良い幸村さんは気がついているのだろうか? これが僕の妄想ならどれほど救われるか。だが僕は知っている。ディティールの正確さはともあれ、この感じがフィクションだった試しはないと。それに……
思い出さないほうが良い。清水センセはこのことに耐えられない。うっすらと狂気をまとったままこの先も生きていく、その方がどれだけ現実的か! 彼が殺したいのは僕だけ。お母さんは偶然亡くなってしまった。僕は彼のお母さんに似てなどいない。屍体なのに発情して苦しんでいてかわいそうで助けてあげたい。大好きだから君しか見えないくらい愛してるからちゃんと殺してあげたい。本当の本物のこの上なく優しい殺意。
幸村さんもどこかでわかっているのかも知れない。彼のお母さんが死んだとき、警察が現場検証に入っている。そのころ幸村さんはまだ警察官ではなかったとしても、上司の誰かは憶えていることもあるだろう。しつこくて察しの良いあの警部補がその情報を探っていないなんて有り得ない。小学生の彼が憶えている記憶と、本当に起こった客観的な事実は違うのかも知れない。多分違う。彼の記憶は断片的で、しかもごっそり抜け落ちている可能性もあった。そして警察が知っている事実が、幼かった彼に告げられていないということも。
だが、僕の過去もこんなふうなのかも知れない。僕以外の誰かには察しがついているのか。特に寺岡さんとか。記憶の抜け落ちた二人が傷跡を舐め合うように殺意を鍵として希死という鍵穴に差し込まれる。あとはそれを回すだけ。回さないのは、純粋に理性によるものだ。余りに凹凸が噛み合ってしまうと、それだけで躊躇してしまうものだと僕も知った。現実というリアリティに多少なりとも晒されていると、余りに出来の良い話はどこかで胡散臭さを感じてしまう。感情はのめり込んでしまっていて、もう戻れないほどなのに、理性はこんなふうに囁く。自分に騙されるな、と。
だから、僕は自分の墓を暴かなければならない。僕の方が清水センセよりまだ耐えられる、そう思っている。小さな裕がもう一人増えるくらいのことはあるかも知れない。その時にはまた寺岡さんの助けを借りるかも知れないが。
埋めたものを掘り返す。僕のため、清水センセのため、そして、幸村さんのため。
「あ……寝てた」
清水センセがうっすら目を開けて、周りを見回していた。
「気持ち良くって寝ちゃったよ。裕くん、退屈じゃなかった?」
「いえ、僕もぼーっとしてました。良い休息です」
「なら良いけど」
そしてうーんと背伸びをすると、窓の外を眺めて僕に言った。
「メモリアルパークに散歩に行く?」
「良いですね」
「じゃ、行こう」



