「大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど?」
「本当ですか?」
「なんか慌ててた?」
「えっと、あの……僕の、あの、粗相の、あそこの始末を……大丈夫だったのかって」
「あっ……そういうことね。うん、全然」
「ごめんなさい……辛いことさせて」
「あぁ、それがそうでもなくて」
「ほんとに?」
「そうだね、子供のオシメを替えてるママくらいには」
「どういう……」
「まあ、子供のオシメを替えたことは一度もないけどね。でも、なんかさ、愛おしいなって。自分でもちょっとびっくり。ま、裕くんだから僕にとっては当たり前といえば当たり前だけど。でも性器でも当たり前が確認できたってのは良いことだった」
チン……とトースターが鳴った。パンが焼けたらしい。取り繕っているようには見えない。
「もう1時過ぎちゃった。さすがにお腹が空いてきた。食べれるでしょ?」
「え、まぁ」
「ほら、僕、ちょっと回復してきたよ。お腹減ったもん」
「良かった…」
脱力した僕はカウンターに手をついて、小声でつぶやいた。
「うん、だから僕は大丈夫だよ。心配だったのは裕くんの方だって。丸まって黙っちゃうし、地の底まで落ち込んでるし、どうしようかって思ったよ。お風呂にでも入ればちょっとは気分転換するかな? って思って勧めたけど、こんな早く出てくるとは思わなかった。でもさっきよりは良いね。しゃべってくれてるし」
違うパニックで丸まってたことを忘れていた。他人の心配をして無意識に自分の気分を誤魔化すのが上手くなってきてる気がした。
「僕は……嗅覚がなくて……すみません、気が付かなくて」
「へ? 何の話?」
「あれの匂いを落とすの気が付かなくて」
「言ってることがわかんないんだけど」
「あの、拭いても、匂いが残って嫌な思いさせちゃったかなって」
「あ、ああ! えっ? そんなこと気にしてたの?」
参った、という感じで清水センセは天井を仰いだ。



