課されたミッション故に身体はどうにか動き、ソファの上で起き上がると、貸してもらった服で前を隠してコソコソと風呂場まで移動した。なにもかもが後悔と絶望感に支配されていた。やっとの思いで服を脱いで浴室に入り、自分の股間を確認すると、見た目はキレイに拭われていて、首を絞められた瞬間に精液を服の中にぶちまけたとは思えなかった。きっと清水センセがウェットティッシュかなんかで拭いてくれたんだろう。自分のペニスと陰嚢を石鹸で洗いながら、なぜこれを温存しているのか意味がわからなくなっていた。それよりも、あれ? いや、待てよ。きれいに拭かれてる……ということは……?

 あのひと、僕の性器を触っ……

 あまりの衝撃に石鹸を流そうと掴みかけたシャワーヘッドを落っことした。本当にあの人は大丈夫だったのか? 限界を越えてるのに僕をあやしてたのではないか? どうやって? これを? 凝視したのだろうか? あの禍々しい白く濁ったものをどうやって拭ったのか? かといってそれを訊けるわけはない。
 いや、彼は僕の精子を見てもパニクらなかったと言った。そう言わせたのは僕がパニクってたから? じゃ、今、僕が眼の前からいなくなって、頓服をODしてるのかも? それを思っただけで僕がパニクりそうになった。取り落したシャワーを速攻で掴み、最速で泡を落とし、転びそうなほど慌てて浴室を出る。用意してくれたバスタオルで水滴を拭き取るのもそこそこに、彼のトランクスとスウェットに足を突っ込むとトレーナーの上を着ながら大急ぎでリビングに戻った。
 リビングには彼の姿はなかった。どこに行ったんだろう? 寝室を覗いたが誰もいない。そのうちにキッチンから水の音がした。音の方を振り向くと、昼ゴハンの支度をしているらしい清水センセの姿が見えた。

「あれ? 早かったね。ちょっと待って、今、パン焼くから」
「大丈夫ですか? 気分悪くないですか?」

 キッチンカウンターに駆け寄ると、不思議そうな顔をして彼がこちらを向いた。

「わぁ! 裕くんが僕の服着てるぅ〜」

 質問に答えてくれなかったが、僕を見て嬉しそうに笑って手元では缶詰を開けて鍋に移していた。スープか何かだろうか。答えてくれなかった質問を再び投げかけた。