「僕が言うのも間違ってるんだけど。ごめん……でも」
「いえ、出来ます。あの人はフェアな人です。嫉妬で気が狂いそうなのにも関わらず、僕のことを守ってくれた、最後まで。そしてこれからも」

 清水センセはそれを聞くと、何も言わず微笑んだ。そしてしばらくなにか考えている様子だった。

「わかったよ。二人だけはちょっとハードル高いから、君も居てくれるなら、教授と話してみたい」
「そうですか。ありがとうございます」
「あと、お願いなんだけど、僕も同じだけ情報量が欲しいな。調べてわかったことを共有したい。僕も僕なりに分析してなにかわかるかも知れない」
「それは幸村さんも望んでると思います。僕の気持ちがわかるのは清水センセしかいないですし」
「そうだと良いな」
「違いもありますけど」
「美学はね。そこは違ってて良いんだ。君が好きなら僕は許容できる」
「それなら腐乱屍体もOKですか?」
「……君とブッキングなら許す」
「単体では?」
「視界に入れたくないかな。あ、X線で骨は撮るよ、もちろん!」
「ほんと、骨好きですよね」
「骨なら砕けてても良い。あ、脱臼も良い」

 何を思い出したのか、ゾクッとした表情を一瞬見せて口角が上がる彼の、抑えきれない愉悦の顔。その恍惚とした瞬間に目を奪われそうになった。屍体でもないのに? 生きてる人になんでそんなもの感じてるんだ。
 わかってる。この骨が僕だったら良いのに、そう思っているんだ、僕は。

 砕かれた舌骨。
 体重で環椎から引き抜かれ脱臼した軸椎。



 ああ殺されたい

 この人に殺されたい

 僕を殺したいと願っているこの人に。

 衝動的に涙が落ちてくる。なんでこんな。なんで泣いてんだぼくは。



「泣かないで」

 フワッと腕が僕に回された。僕は彼の胸の中に居た。