「え、良いの?」
珍しく遠慮していたのかとわかって、少々驚く。佐伯陸に凸していた人とは思えない。
「寺岡さんの希望もあるとは思いますが。なにしろ、寺岡さんはあの男と面識があるので、幸村さん抜きでならあのDVDの件も話すことは可能です。なぜならあの教授は賢過ぎるがゆえに悪党と紙一重なんです。えっと、何が言いたいかと言いますと、犯罪に関する感覚が先生と似てると思うんです。だから僕は幸村さん抜きであれを話して欲しいんです。それを話したら、僕と先生の関係をあの頭に良い人に分析してもらえる気がするんです。これがどんな関係なのか、共依存とか、友情とか、師弟関係とか、SMとか、ほら、なんかいろいろ人間関係ってあるじゃないですか」
「分析して欲しいんだ」
「して欲しいです。もう少し安心したいんです。僕は先生が心配で仕方ないんです。先生の心の傷の深さが怖くて、いつか僕のせいで気が狂ってしまうんじゃないか、とか、いつオーバードーズしてしまうか、とか、それ以前にどうやって僕がこの立場で先生に最善を尽くせるのか……いまだに良くわかってないです。一緒に居ることが良いのか、一緒に居ちゃいけないのか、いつもどこか不安です。でも今は離れることが出来ないから……だからなおさら心配で」
「裕くん……」
「寺岡教授は以前も言ってました。僕と元自衛隊の人の関係性を、本人たちがちっともわかってないって。わかってないから君たちはどうすればいいかがわからない。でも私はよくよくわかってるって。でもわかったところで寺岡さん自身がどうすることも出来ないと。だから私が君たちに指示するから、さっさとそれに従ったらどうだ、と」
「それは本人としては当たってるの?」
「ええ。もう納得しか無かったです。そもそも自分たちの関係性なんて、本人同士じゃわかるわけないのかも知れません。俯瞰できるのは損得関係ない冷静な他人なんでしょう。寺岡さんはその上観察眼が優れてるし、観察した事象から正確に効き目のある解決策を出せる人です。まぁ、文化人類学なんか専門にやってるわけですから当たり前ですが。医者の素質がある気もするけど」
「買ってるんだね、その教授のこと」
「僕の共感覚を炙り出してくれたときなんか、鳥肌モノでしたよ。親ですらわからなかったのに」
「あっ、それか! ああ、それなら君の言ってる意味がわかる」
「幸村さんも刑事なので同じような能力はあります。でも、あの動画のことはどうやっても話せないでしょう? それに僕も絶対に話して欲しくない。でも寺岡さんには話せる。理解される。最悪、僕のいないところでなら、寺岡さんにあの動画を見せるのもどうにか許容できます。それくらい僕は」
そんなに、ぼくはあの人のことを信じているのか。
「……出来るかな。あれを見せるのか」
だって僕は何度、その痴態を寺岡さんに見られ、抱かれ、見透かされてきたのか。



