僕を止めてください 【小説】



「すごく強いのに?」
「強さと助けの要不要は関係ないかと」
「なんで?」
「呪われて永遠の眠りを奪われたゾンビがどれだけ強かろうが、頭を吹き飛ばしてくれって、懇願してるんです。わかるでしょう?」
「あの男はネクロマンサーかなんかなのか。クソだな」

 それは新しい切り口だ、と僕は感心した。

「そうしたら僕はゾンビと言うよりはアンデッドなのかも」
「ああ、そうだね。ゾンビは気持ち悪いし知性もないからアンデッドの方が良いな。ゾンビはやだ。美的センスに欠けるし。でも、アンデッドだったら裕くんは上級だよ」
「あのネクロマンサーがどうやって僕をアンデッドにしたかがわかれば良いんですが」
「最初の最初が、自殺屍体の写真を見た、のがきっかけでしょ?」
「偶然だったはずです。儀式でもなんでも無い」
「首を絞めたらイッてしまったのだって偶然でしょう?」
「ええ、偶然が偶然2つ重なった、ということで」
「偶然とはいえ、首、だよね」
「くび?」
「首吊りと、首絞め」

 やはり、どこから辿ってもそこに行き着くのだ。

「そうなんです。たぶんネクロマンサーの以前に僕にはなにかあったとしか思えないんです。それを解き明かすには、やはり僕の生まれた前後を解き明かさなくてはならないようなんです」
「そうなるよね。話を聞いてわかったけど」
「それで僕、この前、ついに例の教授に助けを求めました」

 ここでこの話を清水センセに説明することになるのか、と、自分で言っておきながら僕は何かに誘導されたような感覚になった。

「例の教授……」
「前カレのことが好きで、今一緒に暮らしてる、寺岡さんっていう文化人類学の教授です」
「ああ、その人」
「悪魔的に頭は良いし、策士だし、行動力あるし、僕に恩があるということらしく」
「だろうね。さっきの話を聞いたら、裕くんには足向けて寝れないような人だよね」
「僕の方がありがたいのですが」
「まぁ、想いはそれぞれだよ」
「それで電話で相談したら、いろいろ協力してくれることになりました。で、近日中にこっちに会いに来ることになってます。幸村さんにも会いたいとかで」
「えっ? そんな話が進んでるんだ! 良かったぁ、ちゃんと救いはあるんだ。良かったよ……何かわかると良いね。君のトラウマのオリジンがさ」

 幸村さんの名前が出ても嫉妬もせず素直に喜んでいる清水センセを見て、再び僕は安心した。仲間ハズレにされたなどと言うこともなく、至極まっとうなことを言っている。
 折りあるごとに、寺岡さんに清水センセのことを話すとしたら、という難問をあれから考えていたが、この清水センセのまっとうな反応を見て、自分でも予想もしなかった発想が生まれていた。それをここで清水センセに問い掛けることにした。

「寺岡さんに会ってみたいですか?」