「幸村さんも寝落ちしながら聞いてましたから、先生もそのまま横になって聞いてて下さい。ちょっとは楽なんじゃないかと」
「ああ、良い? 行儀悪くてゴメンだけど、正直その方がありがたいな」
「死人に行儀よくしても意味ないですよ」
「あぁ、それもそうかな」
「ええと……続けます。それで、Kさんは例の大学教授の寺岡さんに電話をしました。この状況を打開してもらうためです……」
そこから、入院と頸動脈洞症候群や、その後の自殺写真の実験と寺岡さんが小島さんのことが好きだった話をした。そして、最初に語った戸籍の話と、それが寺岡さんにバレて行くことも。
「それから僕は勉強を言い訳にして彼らには会わないように過ごして、大学に合格して彼らや母から逃げるように東北に来ました。教授とKさんはその後付き合うようになって、ようやく相思相愛になりました。僕は最初は卒業した○○大の法医学教室にいたんです。でも、あの県は自殺が多すぎて、僕は逃げて仕事になんなかったので、半ば追い出されるように自殺者の少ないここに来たんです」
「そうだったのか」
「これで、概ね、終わりです」
「そう、終わったんだ」
そう言うと清水センセはしばらく黙って横になったまま目を閉じていた。僕はその間、良い感じに冷えたコーヒーを飲んで、清水センセの回復を待った。
「ありがとう。話したくないことまで色々話させちゃったね。ごめんね……あの……えっと……」
再び口を開いた清水センセは、えっと…と口ごもったまま黙ってしまった。
「なにかありますか?」
僕が助け船を出すと、清水センセは、あの、あのね、えっと、とゴニョゴニョ言い淀んだあと、意を決したように大きく息を吸った。
「あの、ゆ、幸村さんと、ああなっちゃったのはさ……なんで? なにがあったの?」
「え? 幸村さんから聞いてないんですか?」
「聞いたんだけど、少しは話してくれたんだけど、なんかはっきり言わないから、幸村さんが」
そりゃそうだろう。あれを言ったら人格を疑われる。
「岡本にはすまないって思ってるって。なんか言えないようなことしたのかな? あの人」
「しましたね」
「え……マジで?」
「僕が昨日まで恨みに思い続けるくらいのことは」
「あぁ……どうしよう。幸村さんを嫌いになりたくない」
「じゃあ、聞かないほうが良いです」
「そんなに!?」
「ええ。まぁ、あんなことした理由もあとから理解したらわからなくもないんですが……でもね」
「……聞くよ。聞いてどう思うか知る必要があるんだ。僕が幸村さんをどこまで許せるのか」



