僕を止めてください 【小説】



「あの男が僕を遠ざけたのは正解だって僕は気づきました。でもKさんは優しかった。助けを求めた僕を面倒見てくれました。だから、気が狂おうが眠れなくなろうがそんな優しいKさんに電話しちゃダメだったんです。巻き込んだんですよ、僕から、ね」

 そして、絶句している清水センセに、幸村さんに指摘されて思い出したことも告げた。

「でもね、幸村さんは言うんです。本当に死のうと思っている奴は、そんなヤワなカーテンレールで首なんか吊らないんだって。元自衛官はそんな簡単な備品の強度なんか見誤るわけがない。本気じゃなかったんだって」
「そう、なの?」

 囁くように清水センセはようやく言葉を発した。

「それを聞いて僕は自分が同じことを思ったことを思い出しました。Kさんと風呂場の惨状を見て、です。でも、僕はいつの間にかそれを忘れた。封印したんです。僕が自分が死神であることを証明するために。関わったら皆死んでいくという現象の補強です」
「そう……あれは、そういうことだったの」

 ちょっと前の記憶を辿るように清水センセは目線を落とした。

「僕は認めざるを得ませんでした。そしてそれから畳み掛けるように僕があの男に言われたように、悪魔だって正体をバラされました。完敗です、幸村さんに」
「……結局あの人の職業的洞察力が、君を救ったのか」
「いいえ、先生に発作を止めてもらえたから、ですよ。幸村さんが敵愾心を燃やしてその気になったし、もうこれで僕との最後だっていう状況がなければ、あんな回答は得られなかったと思ってます」
「慰めてくれなくていいよ」
「事実ですから」

 清水センセは、ハァァとため息をついて、首をフルフルと横に振った。

「ダメだ……ヤキモチばっかりで」
「すみません」
「いや、裕くんが悪いんじゃない」

 そして自分の額に手を当てて目を閉じると、再び大きなため息をついた。

「あぁ……非道いな……ヒド過ぎて、頭の中がグチャグチャだ。早く幸村さんの情報量に追いつかなくちゃって、思ってるのに……酷い話が多すぎて気持ちが着いていかない。だって、その心中未遂のあとにあの戸籍のことがあったんでしょ? なんかどうしていいかわかんない。あのさ、幸村さんはこれ聞いててどんなだったの?」
「寝そうになる僕を起こす以外は、ほとんど相槌だけだった気がしますが。はっきりとは覚えてません。でも、あまり感情的ではなかったです。淡々と聞かれてた、かな。取り調べ?」
「ああ……幸村さんにはそのモードがあるんだもんね。羨ましいよ」
「あの、休憩入れます?」
「……そうしようかな」

 そう言うと、清水センセはソファにゴロンと横になった。腕を額に乗せて、深呼吸をした。

「幸村さんがね、再三、あれはヒデェ話の連続だぜって、言ってた意味がわかったよ。ほら、あのときも『聞いてるほうがトラウマになりそうな話ばっかり』って言ってたの、これだったんだね。これで僕も幸村さんとそこ、やっと共感できる……はは」

 そう言うと清水センセは苦笑した。