そして僕は続きを再開した。佳彦と別れたあと、耐えきれずに小島さんに電話したこと。僕は小島さんのことをKさん、と呼んだ。電話して、名前を間違えてキレられて、自殺を勧められ手首を掻き切ったのがもう遠い日のことだというのが意外な気がした。
そのあと、博物館の自殺の屍体で発作を起こし、小島さんに介抱されて、自分の身体がおかしくなったのを知ったこと、小島さんが相手の男子が中学3年生を越えると恋愛感情が失せることなどを知って、なんだかんだあって付き合おうってことになったと話した。
「あの男の次が居たの!?」
「ええ、その人のほうが長く付き合いました」
「知らなかった……」
「知ってたら驚きます」
「あの男、そんなこと言ってなかった」
「知らなかったんじゃないですか?」
「いや、プライドじゃない? 僕と別れたせいで君が壊れたって自慢してたぐらいだから。自分が連れてきた実験道具と付き合ってるなんて認めたくなかったろうね。いい気味だ」
「ああ、それはあるかも知れません」
「……もっと大事な人が居たんだ……幸村さんより前に……」
「大事ですが、好きとか嫌いとかは結局無かったんです。それは後から話しますが」
ショックで泣きそうな清水センセをなだめながら、話は小島さんがある日、お前の家はなんかおかしいと言い始めたところに差し掛かる。虐待とか、ネグレクトを疑われ、そのうち、本当の親なのか?という疑問が初めて生まれた。清水センセは居た堪れない顔でじっと聞いていた。彼は何度もマグカップに口をつけ、とうとうコーヒーが無くなり、そのうち一旦話を切ってキッチンに息抜きがてらコーヒーのおかわりを作りに行った。そして、自力で気分をリセットして帰ってきた。
そして、僕が小島さんのリミットの中3になり、そこで寺岡さんの登場となる。また僕を誰かに渡す儀式が行われた。そしてその儀式は失敗に終わる。寺岡さんに小島さんはこっぴどく叱られ、小島さんは胸の奥にわだかまった何かを気づき、吐き出し、僕は小島さんになついていたことに気がつく。
だが、小島さんは鬱病だった。寺岡さんの登場で緩和した彼の緊張は僕の高校受験、合格を経て再び再燃していき、そして、卒業式を控えたある春の日にそれは爆発した。
「心中でした」
「なにそれ……」
「僕に愛されるには屍体になるしかないって、彼は思いつめたんだそうです。これが僕が死神となった出来事です。強烈なトラウマになりました。その時の彼の吐いてる音、トイレで流れる水の音が耳に残って、今でもフラッシュバックします」
清水センセは口に手を当てたまま僕を見つめて絶句していた。



