寝室に戻ろうと僕はカーテンを閉め窓から離れた。清水センセの期待は屍体の僕と暮らすことだ。それは屍体であるその一点に於いて、まさに僕の渇望する夢でもある。寝室のドアを開けると、そこにはベッドの中で上半身を起こした清水センセがいた。そして戻って来た僕に驚いたように振り向いた。

「起きてたんですか」
「君が……居なくて」
「すみません。トイレに行ってました。起こしちゃいましたかね?」
「いや、勝手に目が覚めた……戻ってくると思わなかったよ」
「え? なんで?」
「君に……き…た…と……もって」

 囁くような声を捉えようと、僕は再びベッドのもとの位置に戻った。隣で並んだ彼は恥ずかしそうに壁に顔を背けた。

「なんて言いました?」
「嫌われ……たって…思って」
「そんなことないです」
「添い寝……なんて……気持ち悪いこと、頼んだ」
「別に」
「なんで帰ってきたの?」
「まだお返ししきれてないですから。さ、まだ寝れるでしょ?」

 清水センセの不毛な不安を断ち切ろうと、僕は先に横になり布団に肩までくるまった。でも清水センセは上体を起こしたまま、僕を見下ろして困ったように訊いてきた。

「……君はなんでこんなことしようと思ったの?」
「欲しかったものをくれたからですが。えっと、誰もくれなかったものをくれたので」
「それは僕がさっき言ったんだけど?」
「誰が先に言おうが関係ないです」
「あぁ、そう」
「僕のこと祟り神かなんかだと思ってます?」
「天使」
「同じようなもんです」
「君は僕を救いに来てくれたんだ。でも、いざ目の前にしたらさ……バカだよね。天使が降臨したら大体の人は腰抜かすんだ。あんなに現れて欲しいって願ってたのに。願いがほんとに叶うことの怖さをみんな知らないんじゃないかな」
「ただの屍体です」
「僕も知らなかった……添い寝してくれなんて、なんで言っちゃったんだろ」
「なんでも良いですって言いましたけど?」
「言われたけど」

 後悔に苛まれるかのごとくそう呟くと、清水センセはやおらベッドから降りた。

「どこにいくんですか?」
「僕もトイレ」
「はぁ」
「頭冷やしてくる」
「帰ってきてくださいよ。まだ僕はお返しできてないですから」

 そう僕が言うと、清水センセは面食らったような顔で寝ている僕を見下ろした。

「そんなこと言っていいの?」
「はい。まだ眠れますし。先生もでしょ? 朝まで一緒に」
「ああ…うん……マジか」