目覚めると、暗がりに覆われていた。

 ここはどこだ? と、いつものようにまずその疑問が湧き、隣から聞こえる細い寝息にぼんやりと答えを思い出した。よく寝ている。細い寝息を聞いているうちに、そのことに安堵している自分にしばらくして気がつく。一日くらいでは回復しないとは思うけど、寝る前のあのヒリヒリするような清水センセの過敏さは少しは和らいでると良いと思う。薬を飲まなくても眠っているのは好ましいし、もし服薬しなかったことでパニクり始めても隣に居ればすぐに気づけるし、僕が目を配ればオーバードーズの心配もないのは本当に気が楽だった。
 常夜灯でほんのり鈍い暗闇に、清水センセの横顔が白く浮かんでいる。メガネがない寝顔は少し幼く見えた。かすかに口元が開いているせいで余計無防備な表情になって、今までに見たことがない顔になっている。安らかに見えることが一層僕を安心させた。意識を消すことの安らかさを思う。それはとりもなおさず生きていることからの一時的避難所である。死の下位互換である眠りというギフト。小さな死。

 今は何時なのか密閉されたこの部屋に居るとわからない。携帯をカバンの中に入れて居間に置いてきたので、取りに行こうと枕元のメガネを探り当てると、そっと布団から抜け出た。
 音がしないようにドアを用心深くちょっとだけ開けて隙間からすり抜けると、居間は暗かった。カーテンを閉め忘れた大きな窓の向こうは雪あかりでほのかに植え込みの輪郭くらいは見えたものの、部屋の中まではそれは届かない。日付は変わったのだろうか? それともまだ夜の8時頃なのだろうか? 再びそっと扉を閉め、少しづつ慣れてきた目にメガネをかけてみる。少しだけ解像度が上がる。居間の掛け時計はやはり暗くて見えないので、ソファのカバンを見つけその中を探って携帯を手に取る。二つ折りの携帯を開くと、そこには「0:13」とあった。9時間もノンストップで眠れたようだ。それでもまだ眠れるような気がする。その足でトイレに行った。