「先生は僕と一緒に寝て、勃起する可能性は有るんですか?」
「ないよ! 僕のこと信じてないの?」
「別に勃起してもフツーですよ。なにも悪いことないじゃないですか。ああ、佐伯陸は僕と添い寝しても勃起しないから友達って言ってました。実験的に抱きついたりしてましたが」
「そっそっそんなことしてたの!?」
「実験に付き合ったっていうか。でも、どこをどうやっても恋愛感情は起きなくて、タイプじゃないし好きになんないなぁって佐伯くんはいつも言ってます。良かったです」
「そんな話、なんでずっと黙ってたの!」
「そりゃ、そんな話気分悪いでしょうから」
「佐伯くんに会いに行ったときに妙に自信たっぷりだったのはそういうことだったのか。悔しい」
「でも、無理やりのわがままを仕方なく聞いてやったんです。こんな風に僕からなにかして欲しいことを聞いたことなんてほとんどありませんから」
「そうなの?」
「だから、気にしないでフツーに寝て下さい。さっきより緊張感解けませんか?」
「……ああ、うん。まぁ、さっきよりは、良いかな」
「寝ましょう」
「ああ、そうだね」

 清水センセは呆れたようにそう言うと、僕の隣で仰向けになった。壁との一体化は解消され、怒ってグッタリした様子で目を閉じた。

「なんか、どうでもよくなった」
「それは良かったです」
「もしかして狙ってた?」
「まあ、それなりに」
「案外策士なんだな、裕くんは」
「心配なんですよ。疲れてるのに寝ないって言うんだから」
「寝れそう…はぁーあ、あくび出てきた」
「おやすみなさい」
「おやすみ」

 まだ、昼下がりの3時頃だ。外はまだキラキラと日差しが明るい。このまま僕も15時間くらい死んだように眠れると思うとウットリとした。気がつくと、いつの間にか隣からスースー寝息が聞こえてくる。まだ濃いクマがある少し痩せてしまった横顔が常夜灯にうっすら浮かぶ。ちゃんと眠れたみたいだ……マジで疲労困憊だったんだな。しかし添い寝というものの需要がこれほどとは思わなかったが、今も昔も人の世話をしている方が楽だ。それに僕は人を眠らせる力があるようだ。元屍体ならではの永眠力とでも言おうか。
 さて、明日は寺岡さんの話をするべきなのか。今になってやっぱり幸村さんからではなく、自分から話したほうが良いような気がしてきた。過去の話も、佳彦のあと小島さんに会って、寺岡さんに会った件を話さないと。今なら自分から話せるような気もする。そう言えば、幸村さんは今日も家の外で見張ってるのかな……小さい裕はやっぱり出てこないな……ガチ恋でも勃たないってどういう……

 いつしか僕も眠っていた。長い夢を見たような気がする。

 あの夢を見ていた。

 夢の中で僕は首に指が巻きついているのを懐かしく感じていた。
 一度も外れたことのないこの指は、一体誰の指なんだろう?
 夢の中のそこは真っ暗で何も見えない。でも、だれか居る。

 それは潜在意識のイメージなのか、本当にあった出来事なのか
 それとも、なにかの媒体で見た画像の記憶なのかはわからなかった。
 夢の中なのに、首を絞められるとふぅっと意識が遠くなり、愉悦が満ちてくる。
 それは首を絞められて射精する現象の、まるで原型のようでもあった。

 僕は思う。もっと、もっと、と。
 真っ暗な場所で、わからない誰かに、僕は願っている。
 この指を離さないで、と。