初めて清水センセと一緒にベッドに入る。あまり初めてという気がしないのは、この家で一泊しているからだろうか。一緒に布団に入っているが、幸村さんのような圧迫感の有る存在感は無く、よく見ると清水センセは、壁に張り付いたようになっている。布団に入るといつも犬のようにじゃれついてくる幸村さんや佐伯陸とは大違いだ。薄暗い中で壁際から清水センセが僕に尋ねる。

「ゆ、裕くんは、寝相良い?」
「屍体に寝相はありませんが」
「寝返り打たないの?」
「はい。多分お棺の中でも問題なく寝れます」
「はは……さすがだね」
「あの、先生、壁と同化してますよ。もう少しスペースありますからこっちに」

 それを聞いた清水センセは黙り込んでいたが、ものすごく早口でささやき声がした。

「そんなこと出来るわけ無いでしょ」
「寒くないですか?」
「顔が熱い」
「足が冷えません?」
「そんなのわかんない」
「寝られるんですか?」
「知らない」
「ソファ行きましょうか?」
「行かないで!」

 高速で囁いてはいるが、もはや悲鳴である。

「はあ」
「慣れるまで待って。慣れるから行かないで」
「良いですけど、眠れます?」
「もはや疲れてるかどうかさえどうでも良くなった」
「寝る意味」
「違う、裕くんと寝る意味、だ」
「ちゃんと寝ましょう」
「不安で不安で」
「何がですか?」
「裕くんに気持ち悪く思われないかって」
「思いませんよ。この期に及んで」
「前は思ってたってことだよね」
「そりゃ、初めて会った時の先生はメチャクチャでしたから。気持ち悪いと言うより、気味が悪い、の方がニュアンス的に近いですけど」
「ごめん」
「そんな先生にこんなにお世話になるなんて思いませんでしたけどね」
「気持ち悪くない?」
「ないです」
「ほんとに?」
「逆じゃないですか? 先生は僕の肉体とか性欲とか、気持ち悪いんじゃないですか?」
「そんなわけないでしょ!」

 再び清水センセは叫んだ。そして壁際から僕の方に寝返りを打って僕の顔を見た。もう、ささやき声でも早口でもなくなった。

「なんでそんなこと言うの!」
「初めて会ったときには僕に抱きついたけど、きっと実験で勃起したりしてるのを見て嫌になったんじゃないかなって」

 まぁ、そんなことを僕は思ってはいないが、そんなことでも言えば壁との一体化をやめるかと思って言ってみたのだった。

「なるわけないじゃない! 僕がどれだけ君のこと好きだと思ってるの?」
「でも、僕は前に付き合ってた年上の男性から聞いたことがあります。『好きにも二通りある。好きなだけなら友達、勃ったら恋』って」
「僕はそんなことはない。勃たなくても恋だ。ガチ恋なんだって」
「あの、先生は僕の動画で勃ったりしませんでしたか?」
「ないよ! あのさ、僕の神聖な想いを勃つとか勃たないとかいう低俗な判断基準で決めつけないでくれる?」

 ヒートアップしてきた清水センセはだんだんと壁から離脱して来た。作戦成功である。