「もう洗濯も終わりました。先生がこっちに来るまでに干し終わります」
「ほんとに会えるんだ……いいのかな。すごく今、戸惑ってるけど。都合の良すぎる夢を観ているみたいで怖い」
「都合が良いかどうかなんてまだ全然わからないですよ。でも、僕は妥協しているわけでも、誰かに言われたわけでも、打算があるわけでもなくて……とにかく必要だと、この行動が必要だって思ってます。僕自身も不安定なのは否定できませんけど」
「わかった。今から迎えに行くよ。僕はね、不安なんだ。実感が無いんだ。だから不安で不安でどうしようもない。君から受け入れられてるって未だに半信半疑なんだ。だって、裕くんに会えて、僕に関わってくれて、僕のことを考えてくれてるそのことがまだ夢みたいなんだから」
「じゃ、慣れて下さい。僕は好きとか嫌いとかはわかりませんが、先生が必要なんです。それは僕のほうが申し訳ないです。僕は先生の気持ちに応えたいと思ってます。それは嘘じゃないです」
「……ほんとうに?」
「ええ。こんなこと、簡単に言えることではないですから」

 簡単に言えることなんかではない。僕が誰かと関係することでそこに多かれ少なかれ狂気が引き起こされる。死神でなくなろうが、悪魔をやめようが、それは変わらないような気がした。清水センセが特別なのは、僕がここで身を引いたら本当に、最悪の場合、清水センセが完全に狂ってしまうと本当に僕が思っているからだ。そしてその癒着に僕は支えられて日常をやり過ごせている。そう言う意味で、いつの間にか、気がつけば彼と僕は存在の一部分づつを共有してしまったと言える。結合双生児のような普通ではない事態……でも、異常だと言ったところで今のところどうにもならない。

 共依存とでも?

 大学の授業で心理学の教授がそんなことを言っていた。自分と特定の誰かが互いに過剰に依存し合うこと。その関係性に囚われている状態のことを指す。お互いが相手に依存するあまり、その囚われている関係への嗜癖(アディクション)となる。僕と清水センセの関係が全部共依存に当てはまるかどうかは定かではないが、そう言われてもおかしくないような関係をはらんでいると言える。では? ではどうしろと言うんだ。アディクション? そんな言葉で済む話じゃない!
 
「わかった。ありがとう。もし無理ならすぐ言って?」
「ええ、それは約束します。じゃ、また後で」
「うん。あ、お昼食べた?」
「いえ、忘れてました」
「じゃ、なんか買っていくからちょっと待ってて。うちで食べよ?」
「そうですか、いつもすみません」
「良いんだって。じゃ、また後でね」

 電話を切って、そのまま脱衣所に向かう。洗濯機から洗濯物を取り出してバルコニーへ出た。変わらずに晴れている。その眩しさに目を細める。難しいことを考えたくなくなるくらい。