小島さんに犯された傷はその後も数日はしばらく疼いた。手首の傷の時に医者からもらった痛み止めの残りを飲んで苦痛をしのいだ。それでも小島さんと僕の間にある絶望感を和らげる薬は見当たらなかった。

 佳彦と僕の間の鍵と鍵穴のような一致故に一緒にいられなかったのと反対に、小島さんと僕の存在は、まるでねじれの位置のような不可解な距離の、異世界に属する幻のようだった。多分僕達は一緒に居るように見えているだけなのだ、と、僕はイメージの中でそう思った。位相の異なる空間。重なりあう影。手を伸ばしても掴めない幻影…いや、僕は、本当に手を伸ばしているのだろうか。

 生きている人を愛することが僕に出来るのか。それは“お前にとって俺はなんなんだ”という小島さんの問いに答えることだ。あれだけ犯されつくされても、僕はイクことはなかった。性欲と愛はまったく結びつかないまま、死に彩られた絶頂だけが存在する。僕を虜にするあの静けさ、無音の世界。それに匹敵する僕を揺り動かすほどの動機を、生きているもののどこに見つければいいのか僕には手がかりがなかった。