精神的にムチャクチャ動揺している時のあの低い声なのに、なんとか冷静に話さなければという我慢のようなものが伝わってきて尚更心配になる。僕を守るための抑制の中に常に清水センセは居て、それは会うごとに僕の話したことをすべて考慮して変わっていっている結果なのだろう。最初からこんなでは決してなかったのだから。一方、幸村さんは自分の信念を揺るぎなく通すことで僕が変わることを望んでいる。でも清水センセは僕の頑固さも無関心さも受け入れようとする。優しさに似た悪辣な優柔不断も、自己中な告白も。僕はどこまでも甘やかされ、そして自分の申し訳無さが胸ぐらを掴んでくる。僕の心境の変化を早く伝えなければ。ちゃんと話さなければこの人を苦しめるだけ。
 
「僕は案外大丈夫です。邪魔もされずによく寝ましたから。何もされなかったのは本当ですし。だから疲労もだいぶ回復してます。心配なのはむしろ先生のほうです。今、話してるのがとっても辛そうで、今どんな精神状態なのかすごく気になります。もし、僕が一緒にいたほうが安心するんだったら、今からうちに寄ってもらって一緒に先生の家に行きます。それに僕はもう死神じゃなくなってしまったし、悪魔のことも……なんていうか……脅威ではなくなった気がして。昨日と今日では感覚が違うんです。そういうことが今朝僕の身に起きて……そのことも先生に説明しなければと思います」
「そうなんだ……心配させてごめん」

 そう言うと電話口からため息が聞こえた。ため息の語尾が震えていて、それが僕の耳に響いた。

「先生……病院が忙しくて疲れすぎたんじゃないですか? 無理し過ぎです。いろいろと無理し過ぎです。頓服飲みながらなんて長くは持たないでしょ? 今は心身共にちゃんと休まなきゃ。休養して下さい、先生」
「こんな僕を気遣ってくれるんだね。ありがとう。ごめんね……裕くんだって大変なのに……もっと自分のこと、考えてよ。僕のことなんてどうでもい…」

 そう言われたところで、僕は自分のことしか考えちゃいない。結局僕はどこまで行っても自己中な考えしか浮かばない。だから僕はこんな風に返した。

「それじゃ、先生が倒れたら僕はどうなるんですか? 頼ってるのは僕です。自分勝手でごめんなさい。でも先生に倒れられたら、僕はまたあの悪夢のような発作を繰り返す生活に逆戻りしなきゃなんないんですよ! 僕はいつだって自分のことしか考えてないんです!」