「もう、連絡が行ったんですか」

 ウソをつく必要もないが、本当は言いたくなかった。でもきっと幸村さんが黙っていたくなかったのだろう。それは優しさなのかフェアプレー精神なのか、それともマウントなのか、僕にはわからなかった。

「だって……お互い少ない冬休みを裕くんとどう過ごすかって、幸村さんも僕も考えてることは同じなんだから。日程が被んないように調整しなきゃって。昨日の夜中と今朝、彼からメール来たから……」

 これはスケジュール調整である。予想外の答えはいつもの通りだ。これは優しさでもフェアプレーでもマウントでもなく事務連絡であるということだ。昨日の夜にさり気なく幸村さんが清水センセのことを訊いていたのを思い出した。最初は2時間って言ってたのは、清水センセと僕が年越しするんじゃないかとか思ってたのかも知れない。でも、清水センセが緊急で病院に呼び出されたのを幸村さんは知って、年越しは俺がもらってラブホに行こう、となった、そんな感じなんだろう。僕の知らない彼らのルールがあるのかも知れない。いずれにせよ、毎度のことだが、その彼らがどんな気持ちでそれをやっているのかが全くわからなかった。

 それにしても清水センセの口調が変わってから、声のトーンがダダ下がりなのが気になる。年末からほとんど休んでいない、疲労困憊で生きた患者と不審死の遺体を行き来していた彼が、パニックを起こす恐怖と戦いながら職責を全うしていたのは電話でよくわかっている話だった。そんな中で僕と幸村さんがラブホで年越ししているなどとメールが来たら。

「……だいたいのことは教えてもらったから把握出来てるんだ。初詣に誘ったっていうのも、ラブホでも何もなかったってこともね。でも、仕事納めの後に夜遅く出掛けるなんて……疲れるでしょう? だから昨日の今日で、午後からは絶対僕と一緒に居て、なんて、言えない。それに君がまだ、人と一緒に居ることに拭えない罪悪感を持って苦しむんだとしたら……僕がそれを無理やりお願いなんて出来ないよ」