うつむきながらこっそり横目で幸村さんを見た。まだ目を逸らしたまんまだ。視線にやり場がなくて窓の外を見ている。さて、どう反応してくるんだろうか。すると気まずそうな顔のまま、幸村さんは重い口を開いた。
「そうだろうな。あれは……ヤリすぎた……後悔はしてないけど、反省はしてる。岡本を疑うなんてどうかしてたし……あんな写真何十枚も……今ならあれが拷問だったってわかる。すまん、わかってなくてすまん」
ようやく認めたか! ブラボー連続放火犯! この件については一度も僕はちゃんと謝られていなかったんだ!! 僕は表情を変えることなく、心の中で数回ガッツポーズをとった。これは予想だにしなかったギフトだった。でも後悔してないのか。本当にしぶといおっさんだ。
「もういいですよ。反省してるって言葉が聞けて、僕もわだかまりが解けました」
「火災保険……か?」
心の強すぎる幸村さんは謝ってスッキリしたらしく、すでに頭の中は再び連続放火事件で一杯になったようだった。僕も思いがけなく気が済んだところがあったので、ツッコまずに事件の続きを考えてみた。
「確かに、連続放火となれば自作自演の線は消える。つまり捜査の撹乱は成功してると」
「その線はどうなってるんですか?」
「保険金詐欺? いやいや全焼なんて1軒しかねーぞ。ボヤや半焼なんかじゃたいした保険は下りねぇよ」
「この場合1軒しか成功しなかったということですか。全焼でいくら貰えるんですか? 今回」
「3000万くらいか? いや、火災保険、入ってるよな? 一戸建てだし」
「けっこう出るんですね」
「いや、保険の額を確認してないのか。えぇ? これ、自作自演だったら大ごとだぞ? でもなぁ、有りなのかなぁ?これ」
そう言うと幸村さんは適温になったコーヒーをゴクリとひと口飲んだ。そして僕を見ると、テーブルに両手を付いて腰を浮かした。一瞬で距離が詰められ、僕はあっという間にキスされていた。とっさに僕はのけぞった。
「なっ、なな!」
「お前は、刑事になれ」
「きっ、キスと関係あんの!?」
「ほんっと、好き。ほんと好きで好きでたまんねーわ」
「そういうのナシだって!!」
「これも立派な親愛の表現だ。恨むなら欧米文化を恨め」
「自制心の塊なんでしょ!?」
「立派な自制心だって! 犯してないだろが!」
「キスはダメでしょ……もう……」
僕は立ち上がり、距離の近すぎる警察官の両肩をつかみ、無理やり椅子に押し戻した。



