僕を止めてください 【小説】



 勝手な心配とはいえずっとこの人の心労の原因となっている僕は、嫌味のような後ろめたさのようなわからないものをつい口走ってしまった。幸村さんははぁ、とため息をついて眉間にシワを寄せた。

「バカか? お前がいなかったら俺はどうすんだ」
「いっ」
 
 いきなりスネをテーブルの下で蹴られて、僕はまた変な声を出した。余計なことを言った自覚があるので文句は言いそびれた。

「疲れてるとしたらお前に会ってないからだぞ。悪いと思ってんなら、なーんかアドバイスしろ」
「屍体もないのに僕に聞いてどうすんですか」
「岡本の変な視点に期待してんの。この前のドルオタの脱走犯みたいな」

 この件は屍体が出ていないので、僕とはまだ関わらない事件である。とはいえ、何度もニュースにはなっていて状況がわからないわけでもない。目撃者も不審者も居ないのに放火が起きるというのは、ものすごく近場の住人が犯人という可能性がある。例えば隣の家。でも、3軒ともそうであるなんていうのは宇宙論的確率だ。そうすると考えられるのは……と、思いついたのは自分でもかなり奇想天外な推論だった。   

「……自分で燃やすというのは有りですかね? 3人とも自主的な放火で」
「おいおい、3軒連続だぞ? 火事の自作自演は多いから、放火の時はいつも疑うけどさ。今回は連続放火だからな。3軒の家の誰かが他の2軒に付け火して回ってるってんじゃなくて、お前は3人が3人とも各自自分で燃やしたってこと言ってるんだよな? 偶然じゃなくて3人つるんで放火に偽装したってことか? そんなことあるかぁ? でなきゃ、同じ時期に関係ない3人が、おんなじ手口で木曜日に次々と偶然に放火を偽装するとか。一人死にかけてるっていうのに」
「ですよね。突飛過ぎました、それは」

 僕のトンデモ推論を聞いた幸村さんは最初はバカにしたような口調だったが、急に真面目な顔になった。