「そうだな……そうは思うけどよ。俺の本当の上手さを岡本に見せつけたいっていうか……だって、今までテクもクソもなんもない発情済みのセックスしかしてねーじゃん。前にも言ったけど、俺は全くその気のない身体をいじくり回した挙句狂わせるのが好きなんだよ。そういう性癖なの!」
「それしないって決めたでしょ? ちょっとは警戒しませんか? 今日だって気がついてみれば同情してズルズルこんな思わせぶりなことして、結果的に無意識に幸村さんの性欲を煽ってるんだと思わない?」
「まぁ、結果的にそうも見える。でも俺はそれで楽しいしな。さっき抜いてスッキリしたし。良いんじゃねーの?」
意地の楽観主義を見せつけながら、幸村さんはようやく僕から離れて隣りに立った。小さい裕はこういうところまで見抜いているのだから大したもんだ。
「なんか良い感じのサンルームだな。そこでモーニングコーヒー飲むか。スゲぇ気持ち良さそうじゃね?」
「良いですが」
「淹れてくる。砂糖とかミルク入れる?」
「ブラックでいいです」
「OK。そこの戸開けて座っといて」
言われたように椅子に座って待っていると、幸村さんがコーヒーカップを両手に戻って来た。
「お待たせ致しました。こちらブラックコーヒー、ぬるめ、でございます」
「ああ、すみません」
カフェのウェイターよろしく、ふざけて僕の前にソーサー付きのカップを置いた。いつの間にか幸村さんは着替えていて、ジャケットを着ていないせいか、黒のスラックスに白いワイシャツでよりウェイターっぽく見える。向かいの椅子に腰掛けると、幸村さんは眩しそうに遠くの雪山を見ながらコーヒーをすすった。この二人でこんな爽やかな朝は初めてじゃないだろうか。
「熱ぃ」
「ぬるくしてくれてありがとうございます」
「俺の熱すぎ」
フーフー冷ましながら幸村さんは何やら考え込んでいる様子だったが、おもむろに口を開いた。
「連続放火犯」
「はぁ」
「目撃者が見つかんねぇ」
「深夜ですからね」
「深夜だからって不審者もいないってどうよ? 防犯カメラも大した映像なんか無いときてる」
「防犯カメラの位置を把握してるんでは?」
「最近は個人宅でもカメラ付けてる家が多いんだ。そんな3軒バラバラの場所の経路のカメラ全部をかい潜れるかってーの。でも手口は一緒、出火する曜日も決まってる、3件とも。じゃあ俺は何を見落としてるんだ?」
「……疲れてるんじゃないですか。僕のせいで」
久しぶりに聞いた敏腕警部補の悩みごとだった。



