目が覚めると、見知らぬ部屋に居た。寝ぼけた頭で現状を把握しようと布団にくるまったまま辺りを見渡すと、昨日の記憶が蘇ってきた。幸村さん……初詣……神社……コンビニの駐車場……そして…?

 ラブホだ。

 ここはラブホテルだった。そうだ。いつものようにあの男から押し切られて、今僕はここに寝ている。大丈夫。セックスは回避したんだ。キスもしなかったくらいだ。幸村さんも約束を守った。危険は回避したのだ。今のところ僕にミスは無い。良かった……

 良かった? 僕は自分の安堵に浸りそうになりながら、待てよ? とストップをかけた。隣を見ると、一緒に寝たはずの男は居なかった。急いで身体を起こすと、ソファの背もたれに乱雑に重なり合って掛かっている黒いスーツとワイシャツが見えた。ということは、まだこのホテルの部屋のどこかに居るのだろう。トイレか、風呂か? 今は何時なんだ? カーテンの隙間から陽が差し込んでいるのがうっすら見えた。日の出は過ぎている。7時? 8時? そして気がつく。まだ、チェックアウトの時間では無いかも知れないことを。つまり、僕がこんなところに無防備に横たわっていることが、途轍もなく不用意で迂闊な行為かも知れないということを。

 悪気はない。悪意もない。ただ、自分の中の悪魔を制御できた試しはない。押し切られたのではない。押し切らせた、のだ。相手の強引さを利用して流されながら、フワッと僕は殺され易い場所に立つ。頼みの綱は相手の自制心だけ。一番外れやすい枷の一つに依頼するのは、それが頼りにならないのを知っているからだろう。確実に殺されに行く。小さい裕の勝ちだ。僕は戦慄した。なぜ一人で帰らなかった? なぜ誘われたときに断固として断らなかった? なぜ、寝る前のことしか警戒していなかったんだ? ずる賢い幸村さんなら、僕を朝まで油断させておいて、朝から強引に犯すくらいのことは当たり前に考えているだろう。実際に朝から抱かれ直すことなんて何回もあった。ここに居るということは既に幸村さんの術中にハマっているということなのではないか? 僕は途方もない後悔に襲われていた。まただ。術中にハマったと見せかけてまた幸村さんを陥れている。危惧したことが起こっている。あの人には自信がある。流される僕をどうにかして押し流せる自信。だから小さい裕はまだこの手が通じると思っているのだ。