「え、そうなのか? こじれるかなぁ」
「うーん、心配掛けたくないということでしょうかね。それにものすごく長い話になりそうなんで。でも僕はかいつまんで話せる自信がこれっぽっちも無いというか」
「まぁ、確かになぁ。でも、その変態教授先生ならこう、理解するんじゃねぇかな」
「どう話したら良いでしょうか?」
「じゃ、俺が話そうか?」
「話さないという選択は?」
「そりゃ、無理じゃね?」
「まぁ……ですよね」
「だったらさ、こっちで会ったときに俺が大まかに話すから、そのあとで教授先生から根掘り葉掘りされればいんじゃね?」
「ああ……それがいちばんマシですかね」
「てか、どうせ俺とお前と教授先生と三人で会うだろ。現状、お前のエロ発作がどうやって治まってるかって説明するのに清水さんのこと話すことになるんだろうよ。そしたら清水さんも混ぜて4人体制のチームの方が良くねぇか? アレは仲間に入れてやんないとハブられたってめちゃくちゃ恨まれるぜ」
「ああ、まぁ、そうなるのは目に見えてますが」
「だろ? それにあいつは岡本のこと一番わかってるんだし。頭おかしいけど頭は良いし……なんか変なこと俺言ってるわ」
「そう、ですね……じゃ、お願いします。寺岡さんに清水先生のことざっと説明して下さい。タイミングは任せます。清水先生のチーム加入のことは、三人で相談してから決めていいですか?」
「おう、良いぞ。いやぁ、お前からもの頼まれるのはチンコ立つくらい快感だな!」
「それはもういいです」
「そんくらいツンデレのデレは蜜の味だってことよ」
「知りませんが」
「じゃ、お願いします、かぁ……ほんとにその言葉がどんくらい聞きたかったか……」

 そう言いながら幸村さんは不意に腕時計を見て、途端にサイドブレーキを解除した。

「おおーっとやべぇ! いつの間にか年越しちまった! 明けましておめでとうな!」

 車が急発車した。携帯の時刻を見ると、1月1日 0:07と表示されていた。1時間なんてあっという間だったなと考えている間に車はコンビニのパーキングを出ると、ものの3分で元の秋葉神社に着いた。

「さぁて初詣だ! お陰さまで最高の年越しだった。そういえば話はアレで終わったのか?」
「ええ、概ね完了です」
「そうか、良かった。本当に良かった……最高だ」

 先程のお参りの手順を同じようになぞって、僕たちは再び社殿の前に戻ってきた。賽銭を入れ、鈴を鳴らす。幸村さんが先で僕があとだ。

「今度はお願いだ。叶えたいことを明確に伝えるのがコツだな。例えば、『再度被害が出ないうちに、今年の1月中になるべく早く放火犯が逮捕されますように』とかいうことだ」
「そんなに詳しく説明するんですね」
「リアルに想像して、貪欲にお願いするのが効くんだよ」
「わかりました」

 願いは決まっている。小さい裕の願いが速やかに叶いますように、だ。貪欲に、というのなら、さほど苦労もせずに叶えて欲しい。巻き込んだ寺岡さんや幸村さんがとんでもない目にあったりしたら大変だし申し訳なさすぎる。そして、僕が悪魔を返上し、誰にも危害を加えない安全な人間となれるように、だ。そうすれば自然に幸村さんも清水センセも僕から解放される。僕は殺されたいなどと思わなくなり、殺人者を引き寄せなくなる。そして、自然の摂理に従って老化し、エントロピーが増大しきった時、待ち望んだ死を迎えることができる。完璧だ。

「けっこう念入りにやったな」
「はい。詳細に、貪欲に、というアドバイスの通りにやりました」

 次々と初詣の参拝客とすれ違いながら、僕たちは来た参道を引き返して行った。