「エロ発作を解消してくれるゲイの敏腕警部補という紹介で……あの、もしかして泣いてます?」
「お前も小さい裕と同じで……たいがい実も蓋もないな…なんだその…ゲイの警部補ってよ……」

 ふざけようとしてもごまかしきれない少し震えた声。本当に泣いてるんだ、幸村さん。

「あの、どうしたんですか? 寺岡さんにヤキモチ焼いてるんですか? 泣いてるようにしか見えないんですが……」
「ああ…泣いてるよ……お前が誰かにちゃんと……ちゃんと助けてって言えたのが…嬉しすぎて泣いてるんだよ…」
「そんなことで?」
「そんなことじゃないんだよ、これが。お前が誰かに助けを求めたことが今まであったかよ?」

 そのことが泣くほど嬉しいというのが僕の理解の範疇を超えている。

「ないと思いますが、すみません……わかりません」
「そっか、お前にはわからないか……まあいいさ、俺の真実望んでたことが起きたんだ。今年の大晦日は俺にとって特別な日になっちまったなぁ。泣くぐらい良いだろ? 俺の爆破型の地雷探知機が今度ばかりは役に立ったのか…ほんとはピンチなら俺を呼べって言いたいけど…まぁもう誰でも良いや。清水さんも寺岡さんもお前から信用されてるんだな」

 ほんの少し恨み言を混ぜながら、幸村さんは泣きながら笑った顔になった。そしてスーツからポケットティッシュを取り出し2枚ほど引き抜いて両手で目に当てた。

「その清水先生も寺岡さんも幸村さんのこと随分信頼してるみたいですけどね。寺岡さんが見た目も含め気になるということで、ぜひ一度会いたいそうです。情報共有したいとか言ってました。寺岡さんは僕に聞いた話だけで幸村さんのこと評価してますし、一緒に僕の出生と父親の自殺の真相を掴みたいと。でも幸村さんが寺岡さんと協力してくれるんなら鬼に金棒だと思いますし、僕もありがたいです。それを幸村さんに伝えたかったのが今日の用件です。前回、清水先生の家から電話してくれた時は既にその話が出ていたのですが、清水先生には今は聞かせられないなと思ったのと、僕がまだ準備が出来てなかったので言えませんでした。忙しいのにほんとすみませんが」
「岡本も俺がその件に関わっても良いって思ってるのか。俺にも多少は信用があるんだな……願ったり叶ったりだ。ようやくこの日が来たんだよな…」

 幸村さんは涙を拭いたティッシュでついでに鼻をかみ、丸めてゴミ箱に入れると、感慨深い様子でタバコを取り出した。咥えて火を点けて運転席の窓を開ける。窓の外に煙と共に大きく息を吐き出した。良かった、と僕はホッとして脱力した。これで寺岡さんに良い返事ができる。

「ありがとうございます。忙しいのにごめんなさい」
「それにしても、こんなふうになる前に、もっと早く俺がどうにか出来てたらな…」
「すみません」
「あーいや、謝んな。俺が悪いんだ。俺は清水さんみたいにお前の気持ちをわかってやれなかったんだし」
「いいんです。僕はとっくに壊れてたんで、早いも遅いもないですよ。追い詰めてくれたのが一番の功績です。じゃ、寺岡さんに伝えます。寺岡さんは冬休みがあるんで、その期間にこっちに来るって言ってます。土日に掛かれば幸村さんもちょっとでも時間を空けられますよね?」
「ああ、いつ来れるか教授に聞いといて」
「ええ。携帯番号教えて良いですか?」
「おう、良いぞ。俺に直接電話してくれていい。その方がスケジュール決めるの楽だろ」
「そうですか。ではそれでお願いします。あの、それでですね、話がこじれるので清水先生のことは何も話してないです」

 僕は一番の懸念事項を幸村さんに伝えた。